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食と育。
おいしく豊かに生きること。

第2回 「食」について考えるときがきた


何百年も生き抜いた老木を眺めていると、
ほんとうに、見飽きるということがありません。

老いていく樹木は、花を咲かせ実をつけるの他にも、
下草も養うことや、木陰をつくることだって、
大切な役割になってくるわけです。
朽ちつつある老木を見ると、そんなところも含めて、
「ほんとうに、かっこいいなぁ」と感じ入ってしまう。

老木の視線で見たら、芽吹いたばかりの苗はかわいい。
さらに育ち、根っこを伸ばして、葉も精一杯しげらせて
高く伸びようとしている若木のことは、
「すばらしい」と言わずしてなんと言いましょうか。

周囲に負けないようにつっぱる若木に対して、
老木なら、
「がんばれよ。いいね。ガンガン行けや!」
と思うだろうとか……いつまでも想像を
してしまいます。

自分以外のものに、何やらかにやらを譲り渡しながら
消えようとしている老木の姿は、
他の時期にはできないことをしているわけですから、
エネルギー量とは関係もないような美しさだけれど、
その姿を見ているだけで、
ものすごくおもしろいのです。
老木も、タネや芽や若木の時代を過ごしてきたはずだ。
そんなことを思うと、ちょっと、
たまらなくなりませんか?

農業や植物のことを真剣に見つめると、自然と、
「いのち」そのものの劇的な声に、
耳をすますことになる。
精一杯、自分の生きる力を発揮した植物が
美しいように、ときには、養分のない中でさえも、
からだの全体を使って、
必死でもがきながら育った人は、
幸せなのではないか──。

木と人間を一緒にするなという気もするけれど、
人間の成長との関係で考えると、
わかることもあるわけで。
農業を見ていると、教育のことにまで、
考えが及ぶのです。

「食の現場」や「食習慣」について考えることが、
そのまま、教育につながるということは、
よくわかります。

河村文部科学大臣との、
「食」と「育」についての会話は、
「安心で安全な食べものについては、
 BSEや鳥インフルエンザへの危機感が、
 食育改革につながる法律を通す追い風になった」
という話に、移ってゆきました。
今日も、お読みください。


糸井 ちょっとした悲劇が
何かを大きく動かす風になることって、
よくありますよね。

牛問題とかが起きなかったら、
もしかしたら、「食」についての取り組みは、
かつてのままになっていたかもしれないですし。
河村 ええ。
もちろん、安心で安全な食べものについては、
BSEや鳥インフルエンザへの危機感が、
法律を通す「追い風」にもなったんです。

食べるときの
コミュニケーションって、大切ですよね。

最近、小泉総理が言いはじめて、
このあいだから、毎週水曜の昼に、
空いている閣僚は、官邸に集まって、
食事をしようということになったんです。

1回目は、カレーライスでした。
総理が、ごはんの上にレタスを乗せて、
さらにその上にカレーをかけて食べたんです。
もちろん、話は他のことを話すんですけど、
「こうしたほうがうまいんだ」
「やってみよう」
そういうきっかけには、なりますから。

私は、学校給食を食べようと提案しました。
近所の、麹町小学校から取り寄せるんです。
糸井 そういうことって、大きいですねぇ。
河村 ぼくも過去に何度か
学校に視察に行ったんです。
大抵、お昼の時間に学校給食を食べることに
なっているんですけど、おいしいんですよね。

法務政務次官をしていたときには、刑務所で
受刑者と一緒に食事を食べたことがありますが、
あれも、けっこうおいしかったんです。
糸井 へぇー。
「クサいメシ」とか言うけど。
河村 クサくない。おいしい!
居心地、よかったですよ。
糸井 「食」と「育」について、
栄養士さんが先生になるという法律の、
次のステップは、河村さんは、何だと思いますか?
河村 食べ方の一覧表を作るとか、
指導するとかいうことももちろん大切です。
指導要領にも入ってきますし、
授業でもとりあげたり、
父兄に対しても伝えられることが増えます。

保健室にかけこむ子どもたちがいますけど、
その子たちの健康相談にも、
食べものの面から、入っていくことができる。
これは、とても大切なことです。

ただ、もうひとつ大事なことは、
校長先生以下、学校にいる先生方にも
「食育」を理解してもらうということ。


話は、そこに進むと思うんです。
栄養士さんが子どもたちの先生として
活躍すると同時に、学校の先生がたにも
一緒に学んでもらうことになるでしょう。
糸井 なるほどなぁ。
よく報道されている
「虐待されている子どもたち」は、
食事の面でも、たいへんでしょうねぇ。
河村 「食事面で日干しになって動けなくなる」
というケースが、多々ありますからね。
虐待する親が、食事を取りあげてしまう例。

虐待にかぎらず、アトピーだとかでも、
食事の影響が非常に大きいですよね。
私の子どもの四人のうちふたりが
アトピーでしたが、最初は、どうしたら
泣きやむのかわからないんですよね……。

揺らしてあやしたりしていましたが、
あれは、いまから考えると、
「子どもを揺らしすぎると危険だ」
という虐待にあたってしまうおそれがある(笑)。

子どもは、かゆくてたまらないから
泣いていたんだし、
かきむしるから血が出ていた。
それは、食べものから来ていたんだということに
気づかなければいけなかったわけです。
知識を持っていないと、わからないんですよね。

学校で「食」について学ぶという機は、
だいぶ、熟しつつあったんです。


子どもの肥満、子どもの糖尿病があります。
子どもに関わらず、糖尿病予備軍が
ものすごく増えてきている背景には、
食習慣が大きいと認識されてきましたよね。
予防には、小さい頃から
正しい習慣をつけるしかない、となってきた。
糸井 アメリカでは、もう、
死亡原因の第1位が肥満ですから……。
ついに、ガンを超えてしまった。
ほんとに、人が太ってきていますよね。
安くていつでも手に入るものを食べて太る。

お金持ちは少なく食べてやせていて、
お金持ちじゃない人が
ジャンクフードで太っているという構図が、
アメリカではふつうになってしまった──。
日本も、このままだと、いずれ、
そうなりますよね?
河村 ええ。
ますます、そうなってきていますよね。
アメリカでは、社会的な問題で、
採用条件に「肥満かどうか」が
取りあげられるようにさえなっていますが、
それでも、肥満はなかなか減らないですから。
糸井 食料が足りていない時代に
「カロリーを取ろう!」という認識があって、
「とにかく、しっかり食べよう」
という時代のまま、今に至っちゃったんですよね。

実際、栄養素のバランスを取って、
専業主婦じゃない人が食事を気にするのは、
ほんとうにたいへんでしょう?
河村 私は毎日、食事ノートをつけているんです。
  前々から、ちいさな手帳につけていましたが、
いまは、一緒に暮らしている三女が
見つけてくれたノートを使っています。
栄養素別に、五色に分けて記入するんですね。
カロリー計算までするわけではないのですが、
書くことによって、バランスの取れた食事かを
考えるようになるんです。

料理屋さんに行っても、
献立をもらってきたりしてね。
糸井 すごいなぁ。
毎食のノートをつけるのって、
「ひと仕事」ですよねぇ……。
河村 もらった献立には、
「何々風」
「何々焼き」とか書かれているので、
材料がわかんなかったりするんです。
ぼくは、素材を聞きたいのに(笑)。
※対談は、明日に、つづきます。
 あなたは、「食」と「育」についてどう思っていますか?
 家で、こんな食事をしたいんだと想像していることや、
 家庭の食の現場について心配していることなどを、
 postman@1101.com
 こちらまで、件名を「食と育」として
 お送りくださるとさいわいです。

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2004-06-11-FRI

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