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食と育。
おいしく豊かに生きること。
たくさん食べることだとか、安く食べることだとかよりも、
「ほんとうにおいしいもの」を少なく食べたり、
「誰かと一緒にいる豊かさ」を感じて食べたりすることが、
心の底から、求められる時代になってきたように思います。

誇りのある食べものを体に取り入れようとしている人には、
やはり、誇りや豊かさが生まれてくるわけで。
「食」や「人」の現場にいる人たちとの話を公開しながら、
豊かさに関するヒントを、お伝えできれば、うれしいです。

「農業」を中心に据えた、糸井重里によるシリーズ対談集。
第1回目のゲストは、文部科学大臣の、河村建夫さんです!

第4回 質のいい食べものを作るためには


農業の現状を調べたり、
農家の実情を知るために現地に足をはこぶと、
ずいぶん、知らないことに触れる機会が多いものです。

たとえば、「農業」「農民」と言うと、仕事としては、
割に、のんびりしたイメージがあるのだけれど、
おいしい野菜を作っている人たちにとっては、
「留まってやるものではないし、
 農業とは、とても落ち着きのないものです」
というものなのだそうだ。
自然との情報戦に近いやりとりを続けるのだという。

大地全体が、地殻のプレートのように流転しているし、
大地は動き続け、地球自体も、毎日、動いているわけで、
「大地は動かない」
という前提で作られた作物は「マズイ」のだそうでした。
動かないことは、生きものにとって、不自然なのだ、と。
だから、たえず、生きものの動きに目を注ぐ必要もあり、
当然、自然の予想外の変化にも対応しなければならない。

農業の現場に出かければ出かけるほど、
「動かざること大地の如し」とかいうコトワザや、
「土着民」とか「土民」という言葉のイメージが、
ガラガラと崩れていくような気がするのです。

農家の人が、
ものすごい量の野菜を生で食べている姿にも驚きました。

「量よりも、質を考えたほうがいいんですよ。
 生きた植物を食べると、
 生きた酵素を食べることになる。
 生きた酵素を食べると、
 体の根底から健康が回復します。
 私は、裏庭から取った野菜をそのまま食べます。
 作りだめをしないと、手間もかかるんだけど、
 モノとして、生きている野菜は非常に豊かです。
 都会にいる人も、マンションのベランダで育てた
 ネギの外側をむしって、その日の味噌汁に入れるとか、
 それだけで、体の調子が変わってくると思います」

農業家から、こんな言葉を聞くと、
豊かさとは何かを、改めて考えさせられるのです。
たしかに、もうすでに、
高級料亭も、高級なニンジンの葉を
料理として出す時代なんですからね。
もちろん、植物を育てている人の言葉は、
人の育て方にも参考になるような話が多いわけで。

この企画では、
「まず、現状を知ること」もテーマにしていきます。
最初のゲスト、河村文部科学大臣との対談は、
今日でいったんおしまいですが、
さらにいろいろな方をお招きしてゆく予定ですので、
今後の展開を、どうぞ、おたのしみに。


河村 食料自給率を、
いかに上げるかということは
非常に大きな問題ですし、
例えば「自給率をあげよう」となると、
大量供給をできるかどうかという話に
なりがちですが、しかし、
量ではなく質として見ることが必要です。

日本のトマトやりんごは海外では珍重がられて、
ほんとうにおいしいですから。
質のいいものを自給できるというのが理想です。
糸井 日本の環境って、
ほんとうに豊かですから……。
農業の大ブランド品、ですよね。
河村 企業が農業に乗りだすと、
「農地がうまくいかなくなったときに、
 転売してしまい、他の土地になる」
と言われています。
それで今、農地は保護されているんです。

私も一時、
山口県農業会議のメンバーだったのですが、
会議のたびに、
「これだけ農地の転用の申請がありました」
という話が、ずいぶん沢山出てくるんです。
核家族になって、
どんどん家を作るものだから、
農地が宅地に変わっていく。
毎年、農地は、減りつつあるんです。
糸井 それで、不便なところは
休耕地になってるんですよね。
東京都の7倍の大きさの土地が、
休耕地になっているんだと聞きました。
河村 農業はもうかるし、
農地はよろこばれるものなんだ、
ということになると、可能性が拡がりますね。
糸井 農業の指導者がいないことと、
もうからないんじゃないかということで、
企業が、なかなか、
乗り出せない状態にあるんですよね。

観光としての耕す農地だって、
もっとたくさんできてもいいのですが。
河村 グリーンツーリズムと言われて、
市民農園も、じわじわ、定着しはじめました。
ビオトープと言って、
「動物、植物、いろいろな生きものが
 自分の力で生きている環境」を
学校教育に生かす動きも、盛んになってますし。

糸井 文部科学省って、ほんとに
やることが多いから大変でしょうけど、
河村さんが、教育について、子どもに、
「これだけは、やっておけよ」
と思っていることは、どういうものですか?
河村 人間力向上というのは、
単に学校のテストでいい点を取った、
というものではないでしょう。

社会性や、規範意識や、
やりたいことを見つけて挑戦すること。
社会に出てみると、そういうことの方が、
よほど重要になってくるんですよね。

例を出すと、北海道では、
一流高校から北海道大学に行って、
北海道拓殖銀行に入るという
エリートコースが、
完全に壊れたわけでしょう?

もちろん、ちゃんと学んでいれば、
ひっくりかえっても次の道があるけど、
「それだけが幸せではない」
ということが言えますよね。

早く自分のやりたいことを見つけなさい、
好奇心を持って、挑戦しなさい、と、
ぼくが言えるのは、それだけですね。


今は、やりたいことがないまま、
手に職を持たないで
フリーターになっている人が多くて、
これは、ほんとうに大きな問題です。

自由時間はたくさんあるけど、
給料が少ないからスネかじりで、
自活能力がないから、結婚をしない。
結婚をしないから、少子化につながる。
……ひとつの国の先行きとしては、
これは、心配になってしまうことですから。
糸井 河村さん自身は、
ちいさい頃は、どういう子どもでしたか?
河村 親が県会議員をしていたものだから、
政治評論家になったらいいかとも思いましたし、
マスコミだとかに、関心を持っていましたね。

ただ、やっぱり長男ですから、
サラリーマンになっても、いずれ
地元に帰れるように、地元企業を選びました。
ただ、新聞社やNHKに行くということも、
就職のときには、考えていたんです。

政治家になってから
実際に見ていると、新聞記者っていうのは
夜昼ひっくりかえっているから、
ほんとに、大変だなぁと思いますけど。

私のいまの生き方は……目指しているのは、
あそこに書いてあるような、
「至誠通天」ということなんです。



郷土の萩の松下村塾の吉田松陰先生は、
「至誠にして動かざる者、
 未だ是あらざるなり」
とおっしゃいました。
真心は、かならず通じるんだ、と。


だから、いまの国会の答弁などでも、
本心にいつわらないようにして、
できるだけ本音を出して議論をしています。

「大臣が言ってしまうと責任が生じる」
ということで、
役所は、ハラハラしているんですけど。

例えば、学校現場に
常勤と非常勤の先生がどれだけいるか、
というデータを、文部科学省は持っていません。
「地方の教育委員会がやっていることですから」
というのが、
官僚の、精一杯の答弁になるわけです。
ところが、私はそのときに、
「あとで調べて返事をします」
と言ってしまいました。そういうことはあります。

教職員の実態を掴んでいないのは、よくない。
やはり、調べなければいかんと考えましたから。
「余計なことを言った。仕事が増えた」
と思われているかもしれませんけれど。

※河村文部科学大臣との対談は、いったんおわります。
 昨日も、とてもたくさんのメールを
 ほんとうにどうもありがとうございました。
 どれも、「食」についてのリアルな感想ばかりでして、
 近い将来、こちらのページでご紹介するかもしれません。
 
 あなたは、「食」と「育」についてどう思っていますか?
 家で、こんな食事をしたいんだと想像していることや、
 家庭の食の現場について心配していることなどを、
 postman@1101.com
 こちらまで、件名を「食と育」として
 お送りくださるとさいわいです。

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これまでの「食と育。 おいしく豊かに生きること。」
2004-06-10 第1回 栄養士さんが教師になる時代
2004-06-11 第2回 「食」について考えるときがきた
2004-06-14 第3回 種から育てるうれしさを学ぶこと

このページに対する激励や感想などは、
メールの表題に「食と育」と書いて、
postman@1101.comに送ってください。

2004-06-15-TUE

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