あたまとぼうしのあいだ。小方英理子さんの創作空間。 あたまとぼうしのあいだ。小方英理子さんの創作空間。
あたまのうえに、船や、馬や、鳥や、
建物を載せた、ひげのおじさん。
小方英理子さんの陶芸作品は、
物体としての迫力にみちています。
小柄な小方さんの中にうずまく、
創造性のマグマを焼き固めたような
これらの作品は、
どうやって、生み出されたのか?
小方さんと、お話してきました。
半径1メートルの世界で。
あたまとぼうしのあいだの空間に。
全4回、担当は「ほぼ日」奥野です。
協力:Gallery Hasu no hana
第4回 半径1メートルからうまれる。
写真
──
ニューヨークで陶芸をはじめて、
じゃ、帰国してからずっと続けてきて。
小方
はい。だから結局、
陶芸は、きちんと学んでいないんです。

最初から試行錯誤の繰り返しでしたし、
だいぶ、まわり道をしてると思います。
──
通っていた陶芸教室は、
そういう感じとは、ちがったんですか。
小方
そこはもう、本当に自由なところで。

80歳を過ぎたおばあちゃんが、
おどろおどろしい怪物をつくってたり、
おじさんが、
ちゃんとドアの開け締めのできる車を
つくってたり、
どっかのおじいちゃんが、
何かの動物の「キバ」をつくってたり。
──
おもしろそうな教室(笑)。
小方
おもしろかったですよ。本当に自由で。

わたしは、大きなヒツジとかヤギとか、
当時は家畜に興味があったので。
──
小方さんの作品のなかには、
人間の骨をイメージさせるようなのも
ありますよね。
写真
anatomical experiment #5
 磁土、化粧土
 2017

960×65×780mm
 八幡 宏
小方
磁器のパーツをたくさんつくって、
黒い地に貼り付けた作品です。

粘土で即興の絵を描くような感じで、
骨や体内の器官などの細かいパーツを
自分の想像を交えながら
ひとつずつつくり、
板の上に並べてひとつの絵にする‥‥
置きながら決めていくんです。
──
解剖図みたいですよね。
小方
そうなんです、昔から
解剖図を眺めるのが好きなんです。

古いヨーロッパの解剖図なんかは、
本当に綺麗なんですよ。
──
綺麗。解剖図が?
小方
妊婦さんの解剖図とかもあって、
お腹のなかとか「まるだし」なのに、
すごく穏やかな‥‥
マリアさまみたいな顔してたり。
──
へえ‥‥。
小方
まだ医療が発達してない時代って、
現代人が知っていることを
想像して解剖図を描いてたりして、
それが不思議でもあり、
ファンタジーのようにも感じます。

グロテスクだけど綺麗、というか。
──
なるほど。
小方
ひとつひとつのパーツは、
ちいさい窯で焼いてるんですが、
焼き上がったあと、
板の上に、ザーッと出すんです。
写真
記憶の標本/ mother
 細部

2016
 山本 彩乃
──
ええ。
小方
そのときの「音」が、
なんだか、お骨みたいなんです。
──
あ、こう言ったら何ですが、
お骨って綺麗な音がしますよね。

あのときの音が綺麗だってのは、
何と言ったらいいか、
いいことのような気がします。
小方
軽くて、カンってか細い音です。

人によって、それぞれ、
音も違うんじゃないかなあって、
思うことがあります。
──
骨の音が?
小方
人って、死んじゃったあとには、
みんながみんな、
同じ身体してるわけじゃないというか、
人それぞれなんだと思うんです。
写真
──
ええ。
小方
つまり、人って、それぞれ、
考え方も、好きとか嫌いも、
人生の中でやってきたことも違うから、
そういう違いが、
身体にも影響するような気がしていて。
──
その人がどういう人だったのか‥‥が、
身体に刻まれる。骨の音にも。
小方
それぞれに生き方が違うなら、
それぞれの身体に、
脳とか手足とか骨とかに‥‥何かしら
「どういう人だったか」
「何が好きで」
「とっても大事な人がいた」みたいな、
その人の痕跡が残っても、
おかしくないんじゃないかなあって。
──
なんだか、小方さんらしい考え。

あの、彫刻でも絵画でも写真でも、
具体的な物体をつくる人に、
自分は、あこがれがあるんですね。
小方
あ、そうなんですか。
──
はい。具体的な存在には、
ちょっと敵わないって気がします。

説明なくても成立するんですもん。
小方
ああ‥‥。
──
小方さんの作品にしたって、
なんで頭上に鳥を載せているのか、
説明する必要ないですよね。
写真
portrait series 絵皿
 2018

105×165×14mm
 山根 朋子
小方
わたしは逆に、文章を書ける人が
すごいなあと思うんですけど‥‥
ただ、わたしの場合、
立体、もの‥‥平面じゃないので、
空気もまとっているし、
存在してるだけで、
成り立ってしまう怖さはあります。
──
怖さ?
小方
何だろう‥‥無責任にはできない、
ある意味で、
自分が納得したものじゃなくても、
見せられちゃうところがあって。
──
ああ、「この破綻を見ないで~!」
‥‥と思っても、
そこにあったら見えちゃいますね。
小方
そう。
写真
──
小方さんは、今どきの
デジタル的な表現はどうですか。
小方
ああ、そうですね。どうだろう。

画面の中の何かにタッチしたら、
何かが起きるという展示を、
子どもと見たことがあるんです。
──
いま、そういうのすごそう。
小方
実際、とてもよくできていて、
はじめは、おもしろかったんです。

でも、子どもだから、
何回も何回も何回も繰り返したら、
やっぱり、
いつか同じパターンが出るんです。
──
ああ、なるほど。
小方
その瞬間、わたしは冷めちゃって、
子どもも、そのうち飽きちゃって。
──
なるほど。でも、それとは反対に、
「このプログラムからは、
 無限にちがう答えが出ます」と
先に言われちゃっても、
それはそれでつまんなそうですね。
小方
そうですね。
──
人間、神の視点を持っちゃうと、
ドキドキできないんですかねえ。
小方
この先どうなるのかわからない、
という状態が、
いちばん、わくわくしますよね。
写真
羽根の帽子
 黒泥土、釉薬、化粧土
 2016

230×32×230mm
 山本 彩乃
──
答えが無限にあるのかないのか、
それすらも「わからない」状態。

陶芸って、まさにそれですよね。
小方
かたちにしておしまいじゃなく、
火の力を借りないと完成しない。

すごく満足のいくかたちになって、
このまま固まってくれたら
どんなにいいだろうと思うことも
なくはないですけど、
でも、そこは、焼かないと、ダメ。
水に濡れたら溶けてしまいますし。
──
自分の力では
どうにもならない点があることの、
おもしろさってことですかね。

窯に入れるときは、
どういう気持ちになるものですか。
小方
とにかく無事に出てきておくれと。
──
おお、子どもを産むみたい。
小方
自分の中でのおまじないがあって、
毎回、かならず唱えてます。
写真
──
小方さんは、作品をつうじて
何か伝えたいことって、あります?
小方
社会なメッセージとかについては、
自分には合わないし、
そういう作品は、つくれないです。

規模の大きなプロジェクトとかに
あこがれはするけど、
結局、自分ができるのは、
こういうことだけって感じですね。
──
ご自身の好きなものをつくったり、
娘さんのためにつくってあげたり。
小方
自分のものづくりって、
ほとんど半径1メートルみたいな、
それくらいの世界です。
──
じゃあ、小方さんの作品も、
小方さんの
あたまとぼうしのあいだの世界から、
生まれてくるんですね。
小方
そうなんだと思います。
写真
Doll #6/ 船を抱く女の子

黒泥土、化粧土、布、羊毛、馬の尻尾

2018
 八幡 宏
<おわります>
2018-12-18-TUE
小方英理子 2016-2018
あたまとぼうしのあいだ
写真
南青山のTOBICHI②では、
12月14日(金)から25日(火)まで、
小方英理子さんの個展を開きます。
インタビュー中にも出てきた
黒泥土の陶芸作品を展示・販売します。
あたまにいろんなものを載せた
おじさんの絵皿やブローチ、
オリジナルトートやポストカード、
一筆箋など、お買い物も楽しめますよ。
Xmasツリーのオーナメントにもなる
ひげのおじさんクッキーも!
ぜひぜひ、ご来場くださいませ。
会 期:2018年12月14(金)~25(火)

時 間:11時~19時

会 場:ほぼ日のTOBICHI②

住 所:東京都港区南青山4丁目28-26

>MAP



※詳しくは展覧会の特設ページでご確認ください
「月の数字」は小方英理子さんの一点ものの陶器作品
ほぼ日ホワイトボードカレンダー、
好評販売中!
写真 写真
フルサイズ 2,808円 / ミディアム 2,268円

(税込・配送手数料別)