あたまのうえに、船や、馬や、鳥や、
建物を載せた、ひげのおじさん。
小方英理子さんの陶芸作品は、
物体としての迫力にみちています。
小柄な小方さんの中にうずまく、
創造性のマグマを焼き固めたような
これらの作品は、
どうやって、生み出されたのか?
小方さんと、お話してきました。
半径1メートルの世界で。
あたまとぼうしのあいだの空間に。
全4回、担当は「ほぼ日」奥野です。
協力:Gallery Hasu no hana
──
デザインとか物体それじたいに、
意味が込められていること、
けっこう、あるじゃないですか。
小方
アラン模様は、まさにそうですね。
長い航海に出かけるだんなさまに、
無事に帰ってきてほしいとか、
子孫繁栄とか、大漁とか、
いろんな願いが込められています。
──
ええ。
小方
あるいは、遭難してしまったとき、
どこの誰なのかわかるように、
家ごとに、模様がちがっていたり。
──
小方さんは、何かを、
何にも思わないでつくることって、
できますか?
何かをつくるときというのは、
何かを思ってつくるんでしょうか。
小方
何も思わないことは、ないです。
かといって、つよいメッセージが
あるわけじゃないんですけど、
ここ最近は、
子どもが生まれたことが大きくて。
──
何か、変わりましたか?
小方
4歳の子どもが、
どこか自分の手の届かないところへ、
ひとりで行くとき‥‥まあ、
保育園ですとか、
別に何でもないところなんですけど、
家から送り出すときとかに。
──
ええ。
小方
セーターの編み模様に込めた願いや、
誰かの祈るような気持ちが、
実感としてわかるようになりました。
人形の作品なんかは、
きりのない不安や、それに対して、
やらずにはいられない‥‥
そういう、
おまじないみたいな気持ちがもとで、
つくりはじめたものです。
Doll #5 / 猫を抱く男の子
黒泥土、化粧土
2018
八幡 宏
──
人形‥‥って、不思議ですよね。
どこんちの子も、
人形あそびは、好きですもんね。
小方
2歳の誕生日につくってあげた人形、
娘はずーっと抱っこして、
おんぶひもをつくってあげたら、
ずーっとおんぶしてます。
おむつを替えるごっこをしたりとか、
かいがいしくお世話してます。
──
4歳児が。何なんでしょうね、あれ。
小方
わからないですけど、
人形には、すごい力があると思います。
そこらへんに落ちてたら拾い上げるし、
うつ伏せになってたら、
ひっくり返したくなっちゃいますし。
──
ごめんごめん、ってあやまりながら。
人間の形をしていることはともかくも、
目や鼻や口や‥‥
自分と同じような顔がついてることが、
大きいのかなあ。
小方
感情だとか魂みたいなものが、
宿っているような気がしちゃいますね。
人のかたちをしたものをつくってると、
ひとりの個人になる瞬間があるんです。
──
へえ! 「君か!」みたいな?
「DOLLS」会場風景 / Gallery Hasu no hana
八幡 宏
小方
そうそう、人形の顔をつくるときって、
骨格を大まかにつくってから、
その上に、肉付けをしていくんですね。
──
ええ。
小方
その骨格、顔のベースしだいで、
「こういう顔にしたい」というよりは、
「こういう顔になっちゃう」
というのが‥‥毎回、不思議なんです。
もっと別の顔にしたいなあと思っても、
なぜか無理に変えられないんです。
──
最初から、そう決まっていたみたいに。
小方
そんなとき、人形に「個」を感じます。
あなたは、こういう顔だったのねって。
──
小方さん的に「好きな顔」というのが、
あったりするんですか?
小方
そうですね、つくっているときは、
好きな顔になったらいいなと思ってます。
──
嫌いな顔になっちゃうことも‥‥?
小方
嫌いな顔になりそうだったら‥‥
でもやっぱり、
好きな顔に寄っていくと思います。
──
手を動かしているうちに。
小方
やりはじめないとわからないことは、
たくさん、あります。
以前は、手を動かさないで、
じっと考え込んでいる時間のほうが、
ずっと長かったんですけど。
──
へえ。熟考型でしたか。
小方
でもいまは、まず手を動かしてみて、
それでダメだったら、
もう1回やり直せばいいやみたいに、
考えられるようになりました。
──
完璧主義的だったんですかね、昔は。
小方
世間の目を気にしすぎていたかも。
いまはもう、
あまり気にしなくなったと思います。
──
きっかけって、何でしょうね。
小方
やっぱり子どもが生まれたからかな。
自由になる時間が限られているので、
考え込んでる時間がないんです。
なので、昔に比べたら、
はるかに、制作していると思います。
──
なるほど。
小方
ゼロよりは1のほうがマシだなって、
思えるようになったというか。
セーターの森
黒泥土、釉薬、化粧土
2018
230×32×230mm
八幡 宏
──
あの、石内都さんという写真家が、
広島の原爆の遺品を
毎年、撮影しに行ってるんですね。
自分のライフワークだ、と言って。
小方
毎年?
──
そう、広島の原爆の遺品って、
いまだに、
新しいものが出てくるそうです。
で、石内さんのお写真を見ると、
もう、ただ感動するんです。
小方
遺品の写真に。
──
当時は、お母さんが子どもに、
洋服を仕立ててあげていたので、
襟のうしろっかわのところに、
名前が、縫い付けられていたり。
小方
ああ、そうですよね。
──
とくに、お子さんが女の子だった場合、
精一杯のフリフリをつけたり、
少しでもかわいくしてあげようという、
洋服というより、
娘に対する母親の思いの塊に見えます。
小方
綺麗な模様の生地が使われていたり、
刺繍があったり、
凝ったデザインだったり、
戦時中でも人々は
日々の喜びを忘れていないというか、
そこに感動したのを覚えています。
──
で、そういう洋服が、
焼けて、ボロボロになっているわけで。
小方
背守りって、あるじゃないですか。
ちいさい子どもを災厄から守るために、
産着の背中に刺繍するやつ。
──
はい。それも石内さん、撮ってますね。
小方
おまじないの一種だと思うんですが、
自分が親になってみて、
あの気持ちが、本当にわかるんです。
アランの編み模様にも、背守りにも、
自然に納得がいくようになりました。
──
ああ、装飾に意味があるってことは、
誰かの、誰かに対する思いが、
込められているってことなんですね。
小方
そうか、なるほど。そうですね。
かわいくしてあげたい親の思いとか、
災いを遠ざけようとする願いや祈り。
──
あんまり大げさなことを言う必要も
ないのかもしれないけど、
人間が、自分の手で
ものをつくるって「尊い」というか、
なんだか、そんな気がします。
小方
本当ですね。
──
人間って、結局、
人間に対して興味があるんだろうなと、
よく思うんです。
たかが人間のつくったものじゃないか、
という気持ちと、
人間のつくったものだから尊いという、
ふたつの気持ちがあります。
小方
あ、それは、わたしも、そう思います。
自然がつくったものはすごいけど、
人間がつくったものは、愛おしいです。
Sweater
黒泥土、化粧土
2015
300×230×280mm
山本 彩乃
<つづきます>
2018-12-17-MON
小方英理子 2016-2018
あたまとぼうしのあいだ
南青山のTOBICHI②では、
12月14日(金)から25日(火)まで、
小方英理子さんの個展を開きます。
インタビュー中にも出てきた
黒泥土の陶芸作品を展示・販売します。
あたまにいろんなものを載せた
おじさんの絵皿やブローチ、
オリジナルトートやポストカード、
一筆箋など、お買い物も楽しめますよ。
Xmasツリーのオーナメントにもなる
ひげのおじさんクッキーも!
ぜひぜひ、ご来場くださいませ。
会 期:2018年12月14(金)~25(火)
時 間:11時~19時
会 場:ほぼ日のTOBICHI②
住 所:東京都港区南青山4丁目28-26
>MAP
※詳しくは
展覧会の特設ページ
でご確認ください
「月の数字」は小方英理子さんの一点ものの陶器作品
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(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN