あたまのうえに、船や、馬や、鳥や、
建物を載せた、ひげのおじさん。
小方英理子さんの陶芸作品は、
物体としての迫力にみちています。
小柄な小方さんの中にうずまく、
創造性のマグマを焼き固めたような
これらの作品は、
どうやって、生み出されたのか?
小方さんと、お話してきました。
半径1メートルの世界で。
あたまとぼうしのあいだの空間に。
全4回、担当は「ほぼ日」奥野です。
協力:Gallery Hasu no hana
──
あたまとぼうしのあいだの空間に
興味がある、という人に
はじめて出会いました‥‥(笑)。
小方
あ、はい(笑)。
──
でも、おもしろい考え方ですよね。
ひみつの場所ってことですもんね。
小方
ひまなバイトをやってるときとか、
突っ立ったまんまで、
いろいろ考えごとをしてたんです。
おもしろいお客さんがいたなとか、
明日のおやすみは何しようとか。
──
ええ。
小方
そんなふうに、お客さんの前で
勝手気ままなことを考えてるのに、
その中身は、
誰にも見られてないということに、
なんだか、ワクワクして。
──
ひそかな楽しみ、というか。
小方
ぼうしをかぶっている人は、
ぼうしとあたまのあいだの空間が
自分だけの世界になっていて、
そこに、
いろいろつまってるんだなあって。
──
それでそのうち、自身の作品にも、
ああいう人たちが登場してきた。
portrait series 絵皿
2018
130×163×13mm
山根 朋子
小方
そうなんです。
──
この人なんか、ぼうしをかぶりつつ、
ヒゲが編み模様に同化してますね。
セーターの森
黒泥土、化粧土
2016
310×300×270mm
山本 彩乃
小方
髪の毛とか、ヒゲとか、爪だとか、
人間の身体の一部なのに
簡単に切り離せるもの、
そういうものが
まさに切り離された「瞬間」から、
いきなり
人体の一部分であることをやめて、
「いらないもの」にもなれば、
何かの「素材」になったりもする。
──
はい。
小方
そういうことにも興味がありました。
昔‥‥ほんとに昔の原始時代には、
いまみたいに、
べんりな素材ってなかったですよね。
──
ええ。
小方
その時代に何かつくろうと思ったら、
「土」をはじめ、
自然のものでつくるしかなかった。
──
そうですね。
小方
だから「その目」で‥‥
つまり、原始の人の目になってみると、
身のまわりのものが、
どんどん素材として見えてくるんです。
わたしが粘土を使っている理由も、
自然にあって、
そこから自由に取ってこれて、
こねて、
火で焼いたらかたちになるという、
その原始的な部分に惹かれているから。
──
わかりやすくて、力強い。
小方
わたしがやってることって、
自然さえあれば‥‥土とか火があれば、
どんなところでも、
時代がうつり変わってもできるんです。
──
それが、
小方さんにとっての陶芸の魅力?
小方
そういうものをつくりたいと思います。
こないだ
金目鯛を煮付けにしたんですけど、
鯛の目玉を、
ずーっと剥いていたんです。
──
ええ。剥いて?
小方
はい、そしたら最後の最後、
すごく綺麗な、透明の‥‥水晶体?
──
が、出てきた?
小方
そう。うちの子どもと、
「すごく綺麗だねえ」って言って、
「糸を通して、
首飾りとかにしたいねえ」って。
‥‥すいません、へんな話で。
──
剥くっていうのは、どうやって?
小方
歯で(笑)。
──
歯? へえ。
小方
食べられる部分は、
子どもが食べていたんですけど、
そのあとの残りを
子どもが歯で剥いていったら、
だんだん、
きれいなビーズみたいな部分が
出てきたんです。
──
へええ。
小方
うっとりするほど綺麗でした。
自然がつくった、
綺麗で不思議な素材だと思いました。
──
そう聞くと、目というよりも、何か。
もともと目だけど、宝石みたいな。
小方
すごく大切なものに思えてきました。
Doll #7 / テレタビーズ人形を抱く女の子
黒泥土、化粧土、布、羊毛、馬のたてがみ
2018
八幡 宏
──
でも、人間がつくりだすものって、
ほとんどは、
もともと自然のものだったわけで。
それを、人が知恵を尽くして‥‥。
小方
そうなんですよね。
あらゆる人工物は知恵のかたまり。
──
実家が
群馬県の桐生のほうなんですけど、
隣の家の3階が蚕部屋でした。
よくそこに忍び込んでたんですが、
いま、あらためて思うと、
お蚕さんってすごいことですよね。
繭にしたり、茹でたり、何だりと。
小方
もともとは蚕が吐き出したものを、
1本1本たぐり寄せて。
──
そういう工程を経て絹糸ができる。
何たることかと思います。
小方
その1本の細い繊維が太い糸になり、
それが編まれてセーターになったり、
織られて布になったり‥‥。
そういう、気の遠くなるような
時間や手間をかけて
何かが出来上がるのを想像すると
すごいなあと思うんです。
──
ほんとですよね。
小方
大昔の人も
きっと私たちと変わらない感覚で、
「いいこと思いついた、やってみよう!」
みたいにやったら
上手くいったんだろうなあと想像したり。
その技術が人から人へ伝わっていって、
時間の中で、どんどん進化しいって、
ただの平編みだったところに
複雑な模様も付けられるようになって。
そのときのつくり手の気持ちを思うと、
すごく楽しくなってくるんです。
──
時代を超えて、おなじつくり手として。
小方
戦争が終わっても
グアムの山のなかに潜伏していた
横井庄一さんって、
もともと仕立て屋さんでしたよね。
隠れているあいだに、
植物の繊維を糸にして仕立てたシャツが
あるんですよ。
──
ええ。襟のついたやつですよね。
小方
ボタンもポケットもついていて。
──
シャツにするだけで
たいへんだったと思うんですけど、
襟やポケットまでつけちゃうんだ。
小方
生きていく、暖をとるだけならば、
きっと必要ないですよね。
──
装飾ですもんね、大きな意味では。
襟なんかとくに。
人に見つからないように隠れてるのに、
飾りの襟は付けちゃうって、
うまく言えませんけど、
人間っていいなあって思えてきますね。
小方
昔、シベリアに抑留された人々が
つくったスプーンにも、
柄のところに、
女の人の飾りがついていました。
現代のわたしたちの目から見ても、
当時の抑留者たちの、
遊び心なんだなあってわかります。
──
なるほど。
小方
厳しい、過酷な状況下でも、
わたしたち人間は、何かをつくる。
そのことに感動するし、
「人間の手の業と、
つくる意欲ってすごいんだなあ」
と思います。
──
女の人の飾りをつけることで、
うれしさ、たのしさ、おもしろさ、
そういうものを、
少しでも足したいと思ったのかな。
厳しくて寒い毎日だからこその。
小方
つくるたのしみ‥‥だと思います。
つくるのは、手がうれしいんです。
──
なるほど。
戦時中の子ども服なんかを見ても、
質素な中にも、おどろくほど
手のこんだ刺繍が、してあったり。
小方
ものは不足していたんだろうけど、
現代のわたしたちと
どっちが心の余裕があるかなって、
そう思うと、
ちょっと、わからなくなりますね。

記憶の標本/ flower
磁土、化粧土
2017
960×65×780mm
八幡 宏
<つづきます>
2018-12-14-FRI
小方英理子 2016-2018
あたまとぼうしのあいだ
南青山のTOBICHI②では、
12月14日(金)から25日(火)まで、
小方英理子さんの個展を開きます。
インタビュー中にも出てきた
黒泥土の陶芸作品を展示・販売します。
あたまにいろんなものを載せた
おじさんの絵皿やブローチ、
オリジナルトートやポストカード、
一筆箋など、お買い物も楽しめますよ。
Xmasツリーのオーナメントにもなる
ひげのおじさんクッキーも!
ぜひぜひ、ご来場くださいませ。
会 期:2018年12月14(金)~25(火)
時 間:11時~19時
会 場:ほぼ日のTOBICHI②
住 所:東京都港区南青山4丁目28-26
>MAP
※詳しくは
展覧会の特設ページ
でご確認ください
「月の数字」は小方英理子さんの一点ものの陶器作品
ほぼ日ホワイトボードカレンダー、
好評販売中!
フルサイズ 2,808円 / ミディアム 2,268円
(税込・配送手数料別)
詳しくはこちら
(C) HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN