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智慧の実を食べよう。
300歳で300分。

「ほぼ日」創刊5周年記念超時間講演会。

ケモノ道をゆく思想家
吉本隆明さん


 「吉本隆明氏に、心からなる
  感謝の気持ちをお伝えしたいと思う。
  吉本氏の思想は、海図のない暗い夜の海を
  一人で航海し続けてきた私にとって、
  かなたにあった強力でたしかな
  導きの光を放つ、唯一の灯台であった」



これは、今年の4月に文庫化された
『チベットのモーツァルト』という本のまえがきで、
思想家の中沢新一さんが、吉本隆明さんに捧げた言葉です。

先人たちの産みだした輝かしい業績におののき、
外国の最新思想の流れに溺れ、そして、静かに世を去る。
それを否定するつもりはないのですが、
日本で「思想家」「哲学者」と呼ばれた人の大多数は、
そんな運命に、巻きこまれていくというのが、現実でした。

吉本隆明さん、78歳。

日本人という立場に臆さず、等身大の
自分の頭で考えつづけてきた、この人の言葉を、
この機会に、ぜひ、肉声で共有したいと思いました。

「驚き」と「笑い」と「納得」した時の
声と息の量が、著しく大きい、この思想家を、
「ほぼ日」は9月13日に、東京国際フォーラムで迎えます。
独特の江戸弁を、たのしみに待っていてくださいね。

今日は、2週間前、
吉本さん宅に「ほぼ日」糸井重里が訪問した際の、
「他愛もないんだけど、味わいのある会話」の中から、
ごくごく一部を、予告編のようにして、ご紹介します。


「こないだ、ぼくは、転びまして……。
 前よりも、歩くのがきつくなって、
 前は500メートルぐらいはラクだったんだけど、
 今は、50メートルぐらいかな? でも、歩いています。
 そんなふうだから、年をとることが、
 幸福なはずはないんじゃないかと思うんです。
 でも、年寄りで、幸せだとさかんに言う人がいますよね。

 『今、たのしくてしょうがないんだ』
 というのを聞いて、なんでそんなにたのしいのかなぁ、
 と想像してみますと……どうやら、結局は、
 「うちの人が、親切にしてくれるから」
 なんじゃないでしょうか。
 ぼくの知ってる限りで、3人、そういう人がいます。
 
 こないだ亡くなられたある人は、
 糖尿病だって言って医者に行っていたんですけど、
 『ぼくはね、吉本さんのように
  禁をおかして、何かを食べたりしません。
  優等生でもって、やってます。
  いまは、たのしくてしょうがないんですよ』
 なんて、言っていまして。
 結局、奥さんと娘さんが、親切にしてくれていたんです。
 実は、糖尿病じゃない別の病気だったし、
 糖尿病ぐらいじゃ、親切にはしてくれないけど。
 でも、幸せが、てきめんに顔に出てましたからねぇ。
 
 『あいかわらず糖尿病で、
  オレより、すこし重いのかしらねぇ』
 なんて感じていたものだから、訃報を聞いて、
 『あいつ、オレには病名、隠していやがった!』
 とは思ったんですけど、
 きっと、家族が優しくしてくれたのが、
 とてもよかったんじゃないでしょうか。
 誰も、あの世まで、
 『あいつは冷たいやつだった』
 という思いを持っていかれるのは嫌だろうから。

 年配の人が、幸せだと言うってことは、
 うちの人が親切にしてくれるという意味だ、と、
 ぼくは、だいたい、そんなふうに、思っているんです」



年齢を重ねた人が、
たとえ、どんなに重い病気でも、
「幸福だ、幸福だ」と言っている時は、
家族が優しくしてくれる時だ、という説は、
会話をしている場を、一気に沸かせたんですよ。

「そっかー。
 人の幸せって、そういうことか……タメになるなぁ。
 みんな、ほんとは、無理して生きてるんですよね(笑)」


「ほぼ日」糸井重里は、興奮しながら、

「吉本さんご本人は、
 甘やかされるの、苦手そうに見えるけど、
 甘やかされると、ゴキゲンそうですよねぇ」


とも、つけくわえていました。

吉本さんは、
ますます根源的なことを考えている様子で、
この後は、人類がサルから、言葉を獲得するまでの間の、
歴史的に無視されている10万年の空白について、
「何もしてなかったはずはないんでさ」というような、
スケールが大きくて愉快な話を、してくださいました。

冒頭の、中沢新一さんの志についての
強いシンパシーも、丁寧に語ってくださったんですよ。

そのあたりは、他のコーナーで、近日中に、お届けします。
独特の江戸弁を、どうぞ、たのしみに待っていてください。

ちなみに、
吉本さんは、糖尿病で食事制限中なのですが、
最近、近所の店の人に、
「吉本さん、あんまんを買いましたよ」
なんて、ご家族にチクられたらしいです。
このへんのところは、スケールが、すごく小さいです。
あいかわらず、いろんな意味で「いい味」出してまして。

……いい長老のひとりめを、まず、ご紹介いたしました。

2003-06-17-TUE

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