怪・その28
「沖縄の御霊」
私の通った高校では修学旅行先は毎年沖縄です。
高校2年に恒例の沖縄へ行きました。
台風に直撃にあった旅先で、
私たちはホテルに缶詰になる日々が続きました。
しかし、「ヒメユリ部隊の洞窟見学」の日だけは
不思議と快晴になり、現地に向かったのです。
狭い洞窟の通路や階段、はしごを下り洞窟の奥へ。
ヌメヌメして暗くて歩きにくい暗闇が続きましたが、
ようやく奥に到着しました。
そこは広々とした空間で、
一人の口伝の老人が蝋燭を片手に生徒を周りに集め、
語り始めました。そこでの歴史を。
傷ついた兵士たちを癒し介抱した女学生達の話を。
ここで数え切れない人々の命が散った話を。
そして、最後に
「黙祷のため、懐中電灯を消してください。
私も蝋燭を消します」と。
うすく光はあるものの、真っ暗闇のなか、
一人が泣き始めました。
知ってる声ではありませんでした。
はっきりとは見えませんが、明らかに私たちの中に、
知らない女の子が私たちと同じように
膝を抱えて座っていました。
顔はうつ伏せで。号泣していました。
洋服も私たちの制服ではありません。
「懐中電灯つけてください」。
先生の声で一斉に皆が声のする方を照らしました。
そこは、慰霊のための小さな塔があり、
女の子座っていた位置には千羽鶴がありました。
あまりの不自然さに皆が硬直してましたが、
不思議と全く怖くはなく、
なんだか一緒にいたい気分になったと、
その場にいた子は私を含め思ってたのです。
あまりに騒ぐ私たちのせいか、翌年から、
修学旅行先は北海道へ変更になったということです。
でも、あの空間を体験した私たちは、
たまにこの話をして思い出します。
あの戦火の時、がんばった人たちがいたから、
今の私らがいるんだよね。と。
そう思うと、不思議な出来事は恐怖というより、
なにか暖かな、切ない記憶と変わるのです。
すべて実話です。
(R)
2005-08-24-WED
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