怪・その21
「雨の帰り道」
それは私がまだ小学生の頃、
いまから25年程前の出来事です。
実家は、父と従業員1名の
小さな建築板金の仕事をしていました。
ある日、父が現場で隣町まで
行かなければならなかったのですが、
急用で行けなくなり、
代わりに従業員の男性が
現場に行くことになりました。
現場での仕事は予想以上に時間がかかり、
帰りが夜になってしまう、
という電話連絡があったそうです。
その夜は小降りながらも雨が降っていました。
次の朝、その従業員が神妙な面持ちで、
父にこう話しました。
「昨夜、幽霊を車に乗せてしまいました‥‥」
と。
隣町とのほぼ中間に、
小さなトンネルがありました。
そのトンネルは
ゆるやかなカーブになっいてるのですが、
交通事故が多く、「これは霊の仕業だ!」と、
いつしか地元では有名な
心霊スポットとなっている場所でした。
従業員が帰り道、
そのトンネルをくぐり抜けたとき、
ヘッドライトの先に人影が映ったので、
近づいて行くとやはり路肩を
髪の長い女性が歩いているのです。
雨の中、傘もささずに‥‥。
先の民家までは数kmもある。
少し不思議に思いながらも、従業員は車を止め、
その女性に
「どこまで行くの?」と訪ねました。
すると、か細い声で
「○○○○まで」。
「雨も降ってるし、帰り道だから送るよ」
と言うと、
その女性は小さく会釈し、
助手席に乗ってきました。
「少し汚れているけど、
これで頭をふくといいよ」
と、てぬぐいを女性にわたすと、
「‥‥‥‥」
何も言わず、
女性はただ小さく頭を下げたそうです。
それからも女性は終止うつむいたままで、
長い髪が顔を覆っていました。
さほど会話もないまましばらく車を走らせ、
その女性が言っていた場所の近くに
差し掛かったとき、
「このあたりかな?」
と、助手席に顔を向けると、
ついさっきまで隣に座っていたはずの女性が
いないのです。
「えっ?!」
従業員は自分の目を疑い、
車を止めて助手席に目をやると、
窓が少し開いていて、シートがびっしょりと濡れ、
その上に小さく折り畳んだ1000円札が
1枚置いてあったそうです。
実際にその車のシートを見ましたが、
濡れた後がシミ状になっていました。
(国道333号)
2007-08-22-WED