おさるアイコン ほぼ日の怪談2010
怪・その2
「深夜のエレベーター」


ちょうど、お盆の時期でした。

夏休みをとっている人も多かったので、
会社はガラガラだったのですが、
プレゼンの準備のため、私をはじめ、
数人のスタッフが社に残っていました。

日付が変わった頃、
ようやく作業にも目処が立ち、
一息入れようということになりました。

会社の地下に入っているコンビニが
深夜12時になると閉店してしまうため、
私と、後輩が、会社の横にある
24時間営業のスーパーまで買出しに行くことに。

風もなく、
ムッとした湿気の残る、
暑い夜でした。

飲み物やお菓子を買い込み、
会社に戻ろうとしたとき、
ふと会社が入っているビルを見上げると、
全体が真っ暗になっているのに、
自分たちがいるフロアだけに
明かりが灯っていたのを覚えています。


深夜に使う非常用のエレベーターに乗り込むと、
私は16Fのボタンを押しました。

そのエレベーターは、
低層階、中層階、高層階用と分かれており、
私たちが乗ったのは、
1Fから14Fまでノンストップの
中層階用エレベーターでした。

後輩が「閉」のボタンを押すと、
エレベーターがぐんぐんあがっていきます。


そこで、奇妙なことが起こったんです。

5Fを過ぎたあたりで、
ピンポン! と警告のベルとともに、
アナウンスが響きました。


「定員オーバーです。後から乗った方は、お降りください」
「定員オーバーです。後から乗った方は、お降りください」
「定員オーバーです。後から乗った方は、お降りください」
「定員オーバーです。後から乗った方は、お降りください」
「定員オーバーです。後から乗った方は、お降りください」


繰り返しされる機械的なアナウンスに、
ざっと血の気がひき、
後輩と言葉もなく顔を見合わせました。


エレベーターの中には、
もちろん私たち二人しかいません。


高速で上昇する中層階エレベーターに
途中で乗り込める人間がいるはずもなく、
「定員10名最大重量600kg」という
制限を告げるアラームが鳴るはずがない。

大慌てで14Fのボタンを押したのですが、
エレベーターはアラームを繰り返しながら、
予定通り16Fに到着。

私たち二人が逃げるようにフロアに降りると、
アラームはぴたりと止まり、
誰もいないエレベーターは、
そのまま音もなく扉が閉まりました。


ただの故障だったのかもしれない。

それでも、お盆の夜に、
小さな箱に身を寄せ合って
みっしりと詰まっていたかもしれない
「なにか」を想像すると、
今でもぞっとしてしまうんです。

(M)

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2010-08-03-TUE