怪・その10
「お化けトンネル」
私は実家が鎌倉なので、
逗子までタクシーで帰る事が時々ありました。
もう何年か前の夜、
赤ん坊を抱いて車に乗り、
話好きの運転手さんだったので
これ幸いとおしゃべりしていました。
トンネルに差し掛かった時、
当時、有名だったお化けトンネルだと気づき、
運転手さんに、
「ねえ、ここで怖い思いしたこと、
あります?」
とたずねると、
「いや、私はありませんけど
同僚がね、乗せたはずの女の人が消えた、とか
お客さんが降りた後
びっしょりシートが濡れていたとか言って、
会社のソファーで毛布かぶって
震えていたことはありますけどね」
と、言っている時、
急に寒い風に当てられた気がして
ぶるっとしたとたん、
フロントガラスに何かが
ぺたり
と張り付きました。
それは、4、5歳ぐらいの子どもの
手のひらのあとのようでした。
私もぎょっとしましたが、
運転手さんは
すごいスピードでトンネルを抜けました。
そして、私たちを目的地で降ろすまで、
ひとことも口をききませんでした。
(YK)
2010-08-11-WED