怪・その10
「留学先のともだち」


去年、イギリスに留学していた時の話です。

大学院の1年間の授業を終えて、
修士論文に取り組んでいた夏の夜中、
寮の個室で寝ていた私は、
ベッドのそばに人が立っている気配を感じました。

夢うつつのような状態で、
目は開けていないのですが、
不思議なことに、そばに立っているのが、
大学院が始まる前のサマースクールの語学学校で
仲良くしていた、上海から来た中国人の女の子だと
確信しました。

その子は文化人類学を専攻していて、
英語もよくできる、とても利発な子でした。
サマースクールでは同じクラスということもあり
毎日のようにしゃべっていたのですが、
大学院が始まると、お互い忙しくなって、
ほとんど会わなくなってしまったのです。

その夜は結局そのまま寝てしまい、
目を開けて周りを確認したのかどうかさえ、
今となっては定かでないのですが、
翌日、気になって他の中国人留学生に聞いてみると、
その子は2日前に自殺したのだ、と知らされました。

しばらく前からその子は、論文の執筆に苦労していて、
指導教官が面談時間をすっぽかされたので
気になって部屋を訪ねてみると、
クローゼットの中で首をつっているのが
見つかったのだそうです。

その子は一人っ子で親の期待を一身に受けており、
良い成績をとらなければと
プレッシャーを感じていたのだと思います。

知らせを受けて、
ご両親はすぐに上海から飛んできました。
両方ともお医者さんで、
その子の検死にも立ち会ったそうです。

日本に帰った今でも、蒸し暑い夜中に
人の気配がして目を覚ますことが、たまにあります。

もちろん本当は誰もいないのですが、
あの子は私に何か伝えたいことがあったのではないかと、
ついつい思ってしまいます。

(アイコ)
この話、こわかった! ほかのひとにも読ませたい。
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2011-08-08-MON