怪・その44
「お母さん?」


わが家は3人家族(両親と私)です。

あれは、私がまだ
小学校低学年だった頃だと思います。

実家は、今から20年ほど前に
中古で購入した一戸建てです。
玄関を入ってすぐ左手がリビング、
右手が洗面所とトイレと浴室、
正面にまっすぐな階段と
キッチンにつながるドアがあります。

ある夜、家族でケンカになり、
母が「出て行く!」と言って
家を飛び出して行ったことがありました。

「コートも着ないで?」と思った記憶があるので、
確か冬だったと思います。

父は私に
「心配しないで、とにかくお風呂に入って
 もう寝なさい。お母さんはお父さんが連れ戻すから」

と言い、私は言われたとおり、お風呂に入りました。

お風呂から上がり、
階段のある玄関ホールに出た時に、
階段に誰かが座っているのに気付きました。

父は、母を探しに外に行ったまま。

この家には私しかいません。

それは、確かに母でした。

階段の2、3段目に腰かけたまま、

身動きせず、

電気もつけずに、

こちらを見ている母。

表情は読み取れませんが、泣いているように見えました。

そして不思議に光っているように、
真っ暗な階段の中で
何となく白っぽく見えました。

「お母さん?」と声をかけて、
返事が返ってきた、と思ったら、

気づいたらベッドの中で朝を迎えていました。

起きて母に
「昨日、出て行かないで階段に隠れてた?」
と聞きましたが、
母は、昨晩家を出て、友人の家に行っていたそうです。
父と帰ってきたら私はもう寝ていたとのこと。

あれは、母の生霊か私の目の錯覚か、
それとも夢だったのか、何とも不思議な体験の記憶です。

時々思い出しては、
母に聞いてみるのですが、

全く記憶にないそうです。

(S)
この話、こわかった! ほかのひとにも読ませたい。
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2011-09-02-FRI