怪・その6
「甘えてくる弟?」
弟が小学3年生の時です。
私は弟の部屋でドア(開いていました)に
背を向けて座り、本を読んでいました。
しばらくすると、別の部屋に居た弟が
背中に頬をぴったりとくっつけて抱き付き、
甘えてきました。
そんな風に抱きついてくるのは久しぶりだったので、
「どうしたの?」と声をかけたのですが、
何も言いません。
私は、学校で何か嫌なことがあったんだな、
と思って振り向かずに、そのまま本を読み続けました。
5分ほどそのままの状態でいたのですが、
次第に弟は体重を掛けて
寄りかかってくるようになりました。
甘えてくるのが可愛くて、
そのままにしたかったのですが
重いし暑いのでとうとう
「ねえ、重いんだけど」
と言いました。
でも弟はそれに答えずまた、
まるで押さえ込むように体重をかけてきたんです。
ぐぐぐ、と体が前のめりになるほど押されて、
たまらず
「ほんとに重いから!
やめてよ!!! やめて!!」
と大声を出して肩で振り払い、
後ろを振り向くと
誰もいませんでした。
振り向くまで2秒もかかっていないし、
足音も全くしませんでした。
でも誰もいない。
怖くなってキッチンに行くと、
母が料理を作っている傍で
弟が勉強をしていました。
こっちに来たでしょ? 抱きついてきたよね?
と、何度問いただしても
弟は
「絶対に行ってない」と言います。
母も「ずっとここに居たよ」と。
仕事から帰ってきた父にこのことを話すと、
あっさり
「ああ、男の子? 居るなぁ」
と言われ、驚きました。
当時スロットマシーンがその部屋にあったのですが
父が使っていると
後ろからきょとん、とした顔で
不思議そうに覗き込んできたそうです。
それを聞いて
それまでは怖いばかりだったのですが、
悪気はなかったのかも‥‥と思えるようになりました。
でも、ほんとうに重くて、
息ができなくなるほど苦しかったんです。
(b)