怪・その13

「足元に落ちた人形は」

怖くはないですが、
不思議な話を思い出したので送ります。

十数年前、友人が
私室の書架の整理をしていたときのことです。

シリーズものを並べ直したり、
上段と下段を入れ替えたりするときに、
本の手前に飾ってあった小物を、
足元へ落としてしまいました。

落ちたのは、子供の頃に買ってもらって気に入っていた
動物のキャラクターの人形でした。

本の整理が佳境だったので、彼女は
「人形はあとで拾おう」と、
そのまま作業を続けたそうです。

そして数分後、きれいに整った棚に
人形を飾り直そうと、足元を見ました。

しかし、人形が見つからなかったのです。

その話を聞いた私は
「他の棚やベッドの下は見たのか」
「間違ってゴミ箱に入ってしまったのではないか」
と問いただしました。

友人の部屋はとても片付いていて、
いくら小さな人形でも
隠れる場所はなさそうなのです。

とまどう私に、友人は、

「転がっていきそうなところは全部見た。

 それに、同種の人形を本棚から落として
 実験してみたけれど、
 そんなに遠くまで転がったりもしなかった」

と不思議そうに言うばかりでした。

その後、何年かに一度、
ふと思い出しては友人に聞くのですが、
まだ人形は出てこないそうです。

(あかり)

2012-08-17-FRI