怪・その12
「ぼろぼろのソファ」
看護士をしている友人から聞いた話です。
彼女の病院には、看護士が休憩中に世間話をしたり、
仮眠をとる部屋があり、
その部屋の冷蔵庫の横には
とても古くて汚いソファが置いてあったそうです。
そのソファは使われておらず、
なぜ捨てないんだろうと不思議に思いながらも
あまり気に留めずにいたそうです。
看護士達は毎日仕事中に
その部屋の前を何度も通るそうです。
ある日彼女がいつものように
その部屋の前を通りすぎたとき、
なんともいえない違和感を覚えたそうです。
視界の角に、あのソファに腰掛ける女性が
見えたような気がしたのです。
女性がソファにすわっているのは
なんらおかしなことではありません。
ただ、その女性は、人にはあり得ないバランスで、
座高がとても高かったそうなのです。
それも大柄というより、
座高だけが、異様に高かったそうです。
その後何度もその部屋の前を通りましたが
怖くて直視することが出来なかったそうですが、
視界の角に入るソファの上には、
常に、その女性はいたそうです。
そして、
何度も行き来しているうちに、
彼女は思い出したそうです。
いた。
この女性はずっといた。
私がこの病院にきたときから、
そういえば
ずっとソファにすわってる。
視界の角で脳の隅っこで認識はしてたけど、
あまりの恐ろしさに、自分の中で
勝手になかったことにしてたんだと、
女性を見たことを認めた瞬間に、気づいたそうです。
他の看護士や医師も
認識はしてないだけできっと見えている。
そう思った彼女は、なかったことに出来ているうちは
そっとしておいてあげようと、
誰にも言わず、後にそのまま病院をやめました。
誰も使わないぼろぼろのソファが
捨てられなかったのは、
あの女性が病院の人たちの無意識の中に
存在していたからなのかもしれません。
(s)