怪・その11
「幼い私が」
私は小さい頃、両親に
たくさんのビデオや写真を撮ってもらっていました。
あるビデオには、幼い私が
歩行器に乗って踊っている様子が映っています。
当時放映されていた
「おかあさんといっしょ」のCDで、
ビデオの中の私は、ひたすら楽しそうでした。
CDの音楽に合わせて歌い踊り続ける私は、
あるところで
不意にぴたりと動きを止めます。
そして、
嬉しそうに天井を見上げたかと思うと、
次の瞬間、
「きえちゃったの!」
と天井を指さし、
母親の顔をじっと見るのです。
それもかなり焦ったような、
不安そうな、
妙に真剣そうな顔で。
「きえちゃったの!」
「ぱちん! ぱちん!」
幼い私の訴えは続き、
両親の「‥‥うぇ?」というような反応の後、
私は再び音楽に合わせて動き出します。
あのビデオを見るたびに私は、
幼い私の目に見えていたものと、
それがぱちんと消えてしまった瞬間を想像するのです。
(ろーと)