怪・その18
「暗渠に立つアパート」
10年くらい前の冬の夜です。
住まいは、川を暗渠にした公園沿いの
4階建てアパートの1階、101号室でした。
当時、女房は二人目の子供の出産で実家に帰っていて
アパートには私ひとりでした。
忙しい職場だったので、
遅い時間に帰宅していました。
帰り途中に買ってきた出来合いの惣菜で食事を済ませ、
風呂も済ませ、さて寝ようかと戸締り火の元を確認し
リビングの灯りを消して、寝室に移動しました。
寝室だけが和室でした。
襖を締め、灯りを消して布団に潜り込むと、
家族がいないことが急にさびしく思えてきました。
なんだか寝付けずぼんやりと起きていたと思います。
突然、ガタガタと襖が揺れました。
咄嗟に『あっ、地震だ!』と思い、目を開けました。
窓からは公園の街灯の光が入ってきていて
暗闇になれた目には、部屋の中が見えています。
10秒間位でしょうか、
襖がガタガタ鳴っていたのは。
でも不思議なことに、部屋は揺れていないんです。
天井から下がった照明器具のコードも。
和室の入口の襖だけ、ガタガタ鳴っていたんです。
新築ではなかったけど
隙間風が入るほどの安普請の建物ではなかったのに。
今は、家を建て別のところに住んでいます。
引越しが決まったとき、
同じアパートの人たちから
101号室は、
入居しても長く住む人がいないよね、と聞きました。
(A)