怪・その21
「痛いからやめて」
20年ほど前、学生時代に友人から聞いた話です。
友人の先輩が、湖に旅行に行った時の事です。
彼は夜、趣味の釣りをしに湖畔に行きました。
その日はあまり収穫がなく、
彼は何度も針を投げ込んでいました。
気付くと、斜め後ろ辺りに、
若い女性が立っていました。
彼は霊感の強い人で、
生きている人ではないと、分かったそうです。
その女性が、
彼を悲しそうな目で見つめているのが分かったのですが、
彼はその視線の意味が分からず、
また目を合わせるのが怖くもあったので、
振り返らずに釣りを続けていたら、
いつの間にか女性は消えていたそうです。
翌日、その湖畔で女性の水死体が上がりました。
入水自殺でした。
騒ぎを聞きつけて彼も行ってみたところ、
やはり、昨夜の女性でした。
女性の体には、
無数の釣り針の引っかき傷がついていました。
きっと、痛いからやめて、と、
彼に訴えに来ていたのでしょう。
彼は、湖に向かって手を合わせ、お詫びをしたそうです。
(とも)