怪・その30
「取り壊される旧校舎」
高校3年生の時の話です。
旧校舎を取り壊し、
新しい校舎を建てる事が決まってから、
影をひそめていた幽霊たちがまるで慌てたように、
ひっきりなしに出るようになりました。
校舎のあちこちで目撃情報が上がります。
それも一人が騒いでいるならまだしも、
なぜか決まって複数でいるときに
いろんな人が見てしまうから、
最早、疑う事すら出来ないという状況でした。
多数あるなかでも一番怖かった話が
『音楽室の少女』です。
当時私は美術部に所属していました。
その日も、幽霊が出るとこわいから、
帰宅時はみんなで一緒に校舎を出よう、と決め、
暗い廊下を部員みんなで
腕を絡ませて歩いていました。
その時です。
「ギャアアアアアア!!!!!」
と言う叫び声と共に
一階から四階にある音楽室まで通じる中央階段を、
ブラスバンド部の友人三人が
絡まりながらかけ降りて来たのです。
青ざめて顎がガクガクしながら私を見つけ、
猛然と肩を揺さぶり
「ねぇ〜〜!! 見ちゃったよ〜!!」と
半泣きで訴えるのです。
もうこっち側もその叫び声が怖くて
みんな叫んでいました。大パニックです。
「とりあえず落ち着いて話して」となんとか言うと、
一人が深呼吸して話し始めました。
ブラスバンド部は他の部員をみな帰した後、
その三人だけで残っておしゃべりをし、
そろそろ帰ろうと部室を出て
鍵をかけようとしていました。
なにせ取り壊すほど古い校舎ですから、たてつけが悪く、
その引き戸も少しだけすきまを空けないと
鍵がかからないというクセがありました。
一人がかけているあいだ、二人は何気なく、
そのトビラのすきまを見ていたのだそうです。
すると、誰もいないはずの部室の奥から
セーラー服の、
髪を二つにしばった女の子が
スーーッと近づいてくるのです。
「え? え?」となりながらも目が離せずにいると、
少女は真っ直ぐに
そのトビラギリギリまで寄ってきて
ピタッと立ち止まると、
バンッッ!!!!!!!!
と両手を付いて、すきまに口を当てこう言ったのです。
「私、飛び降りるから。」
‥‥それで三人はパニックになり、
あの叫び声をあげて走り降りている最中で
私に出くわした。と言うわけでした。
その話にみんなまたも
ウギャ〜〜とパニックになっていると、
鍵しめ担当だった彼女が、
「やだーー!!」と叫ぶのです。
なぜかと聞いたら、
「そうだったんだ!!
私、声は、なんか聞こえたけど、
何が起きたか、分かってなかった!!」
と言ったのです。
彼女は鍵穴しか見てなかったですから、当然ですね。
そして全員でガッシリ腕を組みながら
早足で校舎を出たのは
10年以上たった今となってはいい思い出です。
ちなみに新校舎には一切幽霊は出ないそうです。
(匿名希望)