怪・その29
「実家の愛犬」
5年ほど前のことです。
当時、Kという友人がいましたが、
彼女の言動をきっかけに、距離をおくようになりました。
その直後のこと、Kは癌に冒されました。
理不尽な運命に対する怒りは、なぜか私に向けられ、
あれやこれやの攻撃を受けました。
そんなある夜、
ベッドに近づいてくる人の気配を感じました。
わたしは、Kだとすぐに分かりました。
Kに右手を掴まれ、そのまま部屋の北側まで
ものすごい勢いで引っ張っていかれました。
そのときです。
足もとで犬が吠えたてて、Kの手が放れました。
うちは犬を飼っていません。
実家のダックス、Yの声でした。
子犬のとき、布団でいっしょに寝ていたYです。
その夜は朝まで、
脇のところにYのぬくもりを感じてやすみました。
そんなことがあって、1週間ほどたった頃です。
実家から、Yのお腹に
なにかできものができていると連絡がありました。
癌でした。
すぐに手術をして、今も年老いたものの、元気でいます。
あの夜、Yが身代わりになって、
私を助けてくれたのだと思っています。
(きい)