怪・その6
「いつも会う彼女」
会社勤めをしていた、もう、10年以上前、
毎朝駅まで歩く途中ですれ違う女性がいました。
ほとんどの人間が駅に向かう中、
いつも反対方向に歩いていて。
やせて、髪の長い、そして一年中長袖の服を着た、
たぶん私と同じ歳くらいの女性。
といっても、目線が合う訳でも、
ましてや挨拶する訳でもなく
ただ、毎朝のように見るから
顔だけは覚えてしまった‥‥そんなカンジ。
子どもが出来て退職。
専業主婦になって、
平日の日中に近所を出歩くことが多くなりました。
時間帯は全然違うはずなのに、
彼女の姿をよく見かけるのです。
何か違和感を感じるようになったのは
いつごろからでしょうか?
誰かに確かめようにも、彼女と会うのは、
いつも私ひとりのときばかりで。
家にいるようになってからは、
町内会やら近所つきあいも増えたはずなのに、
そして、すれ違う場所から考えても、
このあたりの住人じゃないかと思うのだけど
相変わらず、誰だかはさっぱりわからないし。
ある日、すれ違った後、思い切って振り返ってみました。
いないのです。誰も。
今でも彼女の姿はよく見かけます。
普通に、何事もなく、すれ違います。
でも、もう、私は決して振り返ることはしません。
(K)