怪・その20
「食べたくなったものは」
十年以上前に
お仕事をさせていただいていた会社の先輩から
聞いた話です。
会社帰りに、
たまたま目にとまった和菓子屋さんで
練りきりなどを買って帰ったそうです。
それからはなぜか無性に和菓子が食べたくなり、
毎日のように食べ、
しかもどんどん量も増えていったそうです。
日を追ううちに、お菓子をじっくり
観察するようにもなったそうです。
ある日ふっと
「なんで急に和菓子が食べたくなったのか?」
と思ったそうです。
考えてみると先輩はまったくの辛党で、
今まで自分で甘いものを
購入したことがなかったそうです。
その年のお盆に、親類が集まり、
賑やかに法要をとりおこなった時、
ふっと最近嗜好が変わった話をしたそうです。
そして、和菓子について熱く語りだすと、
親類みんながしーんとしてしまい、
誰からともなく
「○○ちゃん・・・」と
聞いた事のない方のお名前が
さざ波のように広がったそうです。
お父様のお話によると、
先輩の叔父様にあたる方で、
和菓子職人の方がいらしたそうです。
とても情熱的にお仕事に取り組んでいて、
本当に和菓子が大好きだったそうです。
しかし、戦争で、
夢半ばでお亡くなりになってしまったそうです。
最近は、ご家族も叔父様の事を
ちょっと忘れがちだったようで、
先輩に何かを伝えて欲しかったのかも‥‥
という事になり、
きれいな和菓子をたくさん供えて供養なさったそうです。
お盆が明けると、先輩は何事もなかったように
辛党に戻っていて、
和菓子を購入する事もなくなり、
和菓子に関する知識もすべて消えてしまったそうです。
(ケロヨン)