怪・その22
「教えてくれた?」
私は報道カメラマンです。
北の地方都市で仕事をしていたときのことです。
当時は交通事故の死亡者数が
全国1位2位を争っていた頃で、
不謹慎なことですが、
死者数が切りのいい数字になる事故は
必ず取材に行きました。
ある冬の日の午後、
朝方の事故で亡くなった方が
500人目にあたるということで、
急遽、現場の映像が必要になりました。
季節は冬。
日も落ちてきたし、ニュースの時間は迫ってくる。
手元には素っ気ない警察からの文書があるだけ。
現場は田舎の山道で、
当時はカーナビの精度も低いものでした。
北国ですから、雪が降り積もっています。
現場を見つけるのは、むずかしいと思いました。
それでも、同僚と車を走らせて現場にむかいました。
幸い、山道と町道が交わる交差点に
人が立っていて
その人が指差しているのを見て、
その方向に曲がりました。
しばらく行くと、
雪で覆われた路肩のはじが崩れていて、
木の皮がむけている場所があり、
車の割れたガラスなどを見つけたので、
そこを現場と判断して撮影し、
なんとかニュースに間に合わせました。
放送が終わった後、
警察担当の記者がやってきました。
「よく現場が見つけられましたね。
警察の人もびっくりしていましたよ」
「雪だから見つけにくかったけど、
山道の交差点のところで、
案内人が立ってくれていたから」
「案内人? そんなのいるわけないですよ!
警察もそんなことに人を出すわけないですよ」
「えー、確かに案内人がいたんだよ」
私は現場に一緒に行った同僚にたずねました。
「あの交差点に案内人が立っていたよね?」
「いやー、
おまえが『交差点を左折!』というから
曲がったけど、
人なんていなかったよ」
「マジですか‥‥」
「本人が見つけてほしかったのかなあ」
(W)