怪・その23
「暗がりに寄りかかって」
高校生の頃、同じ電車で帰るメンバー3人で、
駅までの道を歩いていました。
駅までのルートは二つあって、
一つは車通りの多い明るくて賑やかな表の道、
もう一つは住宅地を通る薄暗くて静かな裏の道。
その日は終電で帰る道のりを
ぺちゃくちゃおしゃべりを楽しみながら
行きたかったので、裏道を行きました。
ふと視界の左端に、
道路を一つ挟んだところにある集会所のような建物に
寄りかかり、私たちが来た方向に
体を向けている髪の長い女性が見えました。
なぜか目を離してはいけないという気持ちになり、
おしゃべりを続けながらも、視界の端では
その女性を捉えたまま通り過ぎようとしました。
すると、ゆっ‥‥くり、
私たちが通り過ぎる速さに合わせるように、
彼女が体の正面をこちらに向けたまま
ぐるりと向きを変えました。
たとえるならば、
マネキンが台座ごと向きを変えるように、
顔も体も私たちを正面から見据えたまま、
ぐるーっと動いたのです。
「うわあああ!」
友達の一人が叫んで走り出したのを皮切りに、
残った私たちも声を上げる余裕を無くしたまま
走って逃げました。
しばらく走って、何もついてきていないことを確認し、
みんな堰を切ったように話し出しました。
みんな口には出さなかったけど
その不思議なものの存在には気付いていたのでした。
ただ、不思議だったのは、
それぞれ見えていた姿が違っていたことでした。
私には髪の長い女性に見えていましたが、
もう一人は「いや、帽子を被った男だった」、
もう一人は「髪が短くて携帯を持っていた女だった」‥‥
唯一共通していたのは、
「なんだか分からないけど、やばいと思った」
というその感覚。
後で冷静になって考えると、
街灯も軒下の電気もないところに佇んでいたせいか
灰色に見えたその存在。
ぐるりとこちらを向いたときの、
背筋が凍るような“殺気”、
10年経った今も忘れられません。
(結城)