怪・その27
「覚えのある手」
真冬の夕暮れどきだったので、
まだ17時ごろだったと思います。
私は炬燵に体を半分入れて
上半身は炬燵の外でゴロンと横になり、
テレビでニュースを見てました。
その状態のまま、金縛りになりました。
目は開いていたのでニュースも見れました。
ただ、体が動かないだけです。
私の背中側にリビングの入口のドアがあり、
すぐ横にキッチンがありました。
家には私しかいないはずなのに、
ヒタヒタと裸足で歩いているような足音が
ドアのむこうからしました。
その足音はリビングに入ってくると
真っ直ぐにキッチンへ。
しばらくして、ガラスのコップを
コツンとシンクに置く音がしました。
そしてヒタヒタと、わたしのうしろで足音がしました。
真後ろに来て、
その時、頭を撫でられました。
優しく、二回。
私には、その手の感触に、覚えがありました。
亡くなった母方の祖母がリュウマチのせいか、
指先がかなり曲がり、特徴的だったのです。
次の瞬間、金縛りが解けて
私は弾かれるように飛び起きました。
しかしそこには、だれも居ませんでした。
私は横浜に住んでおり、
祖母のお仏壇は札幌の叔母の家にありました。
叔母の電話番号を知らない私は、
母にとりあえず電話しました。
今、おばあちゃんが来たみたい、
なんて話をしながらキッチンに行くと、
誰も使ってないはずなのに、
水滴の着いたコップが1つ、ありました。
それも母に話しました。
何日かして、母からの電話によると、
叔母に電話してみたら、
叔母さん、近頃忙しくって
お仏壇に水もお茶もあげられず、
1週間ばかりたっていたとのこと。
よっぽど喉が渇いてたのかな?
それにしても、横浜まで水を飲みに行くなんて、遠いねー。
あんたのこと気になって、見に行ったのかな。
なんて、母に言われました。
大丈夫だよ。
おばあちゃんの事大好きだし、忘れてないからね。
いつでも来てね。
と、北に向かってそっと手をあわせました。
(boss)