怪・その34
「迷惑な弟」
私の祖母には、弟が居ました。
この弟、周りにいろんな迷惑をかけたあげく、
行方知れずになって
もう10年以上の月日が経っていました。
そんなある日のこと。
祖母が言うには「夜の9時ごろ」の話。
玄関に近い部屋から、ふっと入り口の戸を見ると、
そこに
行方知れずの弟の姿があったそうです。
祖父母の家は、当時商売をしていた関係で、
入り口の引き戸は透明なガラスの格子戸でした。
祖母は一瞬
「えらい奴が来てしもた!」
と思ったと言います。
祖母や祖母の家族には、
弟にさんざん迷惑をかけられた、
と言う思いがあったからです。
パッと顔をそらして、ほんの数秒躊躇して、
それでも自分の弟だから、
と思いなおして顔を上げた時には
もう、そこに姿はなかったそうです。
玄関の引き戸を開け、外に出て家の前で見回しても、
弟の姿はどこにもありませんでした。
「見間違いやったんや」と、残念なような、
ほっとしたような、複雑な気持ちだったと言います。
その夜。
遅い時間に、祖母の元に1本の電話が入りました。
とある病院からです。
先方は、祖母に弟の名前を告げて
「お知り合いではないでしょうか?」と尋ねました。
「弟です。」
応えた祖母に、
弟がずっとその病院に入院していること、
いよいよ容態が良くなくて、
いわゆる「危篤状態」であること、
自分は天涯孤独だと言っていたこと、
何か身元の手がかりがないかと荷物を調べたら、
そこに女性の写真があり、
裏に「姉」と書かれ、
住所と電話番号が添えられていたことが
告げられたそうです。
同じ市内の病院とはいえ、
車で1時間ほどかかる距離。
祖母は急いで病院に向かい、
そこで意識のない弟と再会、
そして間もなく弟は息を引き取りました。
とても、実際に祖母に
会いに来れるような容態ではなく、
その頃には意識不明だった弟。
祖母は
「最後に謝りに来たに違いないのに、
私はなんで『よぉ帰ってきたなぁ』と
迎えてやらなかったのか」
と、今でも言います。
(sea)