怪・その16
「落ちる夢」
高校生の頃、
落ちる夢ばかり見ていた時期がありました。
特に大学受験や試験を気にしていたわけでもなく、
なぜそんな夢を見るのか不思議でしたが、
それほど気にも留めませんでした。
その夜もどこかから落ちる夢を見て目が覚めると、
いつもの自分のベッドの上でした。
ほっとして、夢で良かった、と思った途端、
ベッドの底が抜けてまたどこかへ落ちていきました。
怖くてまた目が覚めました。
今度もまた、自分のベッドの上でした。
ただ最初の夢と違い、
ベッドの上に半身を起していました。
ああ、怖かった、今度こそ目が覚めた、と思いました。
すると、
布団の上に置いてあった右手が、
すーっと上に持ち上がりました。
自分では動かしたつもりはなく、
びっくりして声も出ません。
手は肘を曲げたまま、
軽く手を上げたような状態で止まっていました。
怖さはなく、ふと、
自分はまた夢を見ているのかな? と思いました。
次の瞬間、手はパタンと布団の上に落ちました。
なんだったのだろうと手をよく見ましたが、
どこも何ともありません。
その夜はそのまま布団をかぶって眠りました。
翌日家族にその話をしても全く信じてもらえません。
夢ではなかった。でも何が何だかわからない。
落ちる夢はそれきり見なくなりました。
(きなこ)