怪・その12
「鏡の前の塩」
私の義理の兄が
ブラジルにサッカー留学していた頃、
サンパウロのあるホテルに泊まった際に体験した
不思議な話です。
泊まった部屋は狭く、
ベッドと鏡台だけしかありませんでした。
ほかには、何もない。
何もないのに、
鏡の前に
なぜか塩がおいてある。
日本でいう盛り塩のように。
サンパウロで盛り塩? と不思議に思いつつ、
義兄は床につきました。
その夜、ふと、目が覚めました。
声が聞こえたからです。
ポルトガル語で。
男性の声。
なになに?
簡単な会話ができるようになった語学力で
じっくり聞いてみた。
「 塩 を どけろ‥‥。
塩 を どけろ‥‥。」
声は、鏡から。
怖くて怖くて、
でも塩があるから大丈夫??
と思って、聞こえないふりをして寝たそうです。
そして無事に朝を迎え、無事にホテルを出ました。
何もなかったそうです。
わたしは、この話を聞いてから、
塩には何かを封じ込む力があると
信じています。
(A)