怪・その13
「喪服の袖を」
つい先日のことです。
夫の母が亡くなりました。
葬式も済んだ次の日だったでしょうか。
夫が
「火葬場で不思議なことがあった」
というのです。
わが家は神式なので、
火葬場で参列者が玉ぐしを捧げ
それぞれ棺が見える壁際にずらっと並んで
棺を炉の中に入れるのを待っている、
そのあいだのことでした。
夫も棺を見つめ
心の中で母と最後のお別れをしていたのでしょう。
そのとき
夫の喪服の袖を誰かが引っ張ったそうです。
引っ張られたほうには
子どもを抱っこした親戚の人が立っていましたが
その親戚の親子とは、
子どもが身を乗り出して
夫に触れられる以上の空間がありました。
袖を引っ張られた夫は
まわりを見回しましたが
皆、壁すれすれに立っているので
誰かが夫の後ろを通った形跡も
なかったようです
夫にはまったく霊感はありません。
しかし、確かにぴっぴ、
と袖を引っ張られた、と言うのです。
きっと母が「元気で暮らしや」と言うたんやなあ、
と思うことにしようということになりました。
(ほたる)