怪・その21

「かわいがってくれた人」

私が体験した
少し悲しくて不思議な出来事です。

自動車免許を取って間もない
大学生だったある晩、
奇妙な夢を見たのです。

小学生の頃、近所に
Sさんという女性が住んでいました。

Sさんは旦那さんと二人暮らしで
子供がいないこともあり、
私をほんとうにかわいがってくれました。
買って貰えないおもちゃがあると
よくSさんにねだったりしたものでした。

程なくして私は
父の転勤で引っ越すこととなり、
Sさんとは年賀状のやり取りをする程度の
間柄になったのです。


私が中学生に上がるころ、
Sさんが肺がんを患い、
入院して半年も経たないうちに
帰らぬ人となりました。
まだ30代半ばという若さで。

今まで思い出すことはあっても
夢に出てくることは、
その時まで一度もありませんでした。

私は夢の中で
買ったばかりの車を運転していました。
するとSさんが道端に佇み、
笑顔一杯に手を振っているのです。

驚いたことにSさんは、
ウェディングドレスを身にまとって
私に向かってこう話しかけてきたのです。

「〇〇ちゃん、
 これから結婚式だから
 会場まで車で送ってちょうだい」

そのSさんの表情はほんとうに嬉しそうでした。

夢の内容は大体そのような感じでしたが、
内容が内容なだけに
翌日仲の良かった母親にも
その夢のことを伝えました。

母は「何か不思議な話ね」というだけで、
特に関心もあまり無さそうでした。

その手紙が我が家に届くまでは。

私が不思議な夢を見た日から程無くして、
死別したSさんの旦那さまから
Sさんが亡くなって15年を区切りに
再婚することのご報告が
記してありました。

(h)

こわいね!
2015-08-16-SUN