怪・その11
「ああ、これが。」
これは、わたしが結婚して移り住んだ町の、
地元の本屋のおじさんに聞いた、実話です。
その町は大きな不動産会社が
山奥を切り開いて作ったニュータウンで、
もともと凄い山の中です。
ある日、おじさんが雨の夜、
車で山道を走っていると、
前方の、何も無い広々した草むらに、
突然女の人がスクッと現れたそうです。
その人はすらりと長身で、カッコ良く、
トレンチコートを着て
パンツスタイルで雨の中で
モデル立ちしていたそうです。
突然現れたことと、
そんな場所に
そんな都会風な女の人がいることが
とても不自然で、
『えっ、なんでぇ?』と
とても驚いたそうです。
女の人は真っ直ぐ堂々と立っていて、
顔を上に向けているのに、
ストレートの黒髪が顔にかかっていて、
目ははっきり見えないけど
赤い唇はハッキリ見えたそうです。
笑っているようだったそうです。
真っ暗なのに
なぜかその人だけは
くっきりと見えたそうです。
おじさんが
『えーっ、えーっ!』と驚いている間に、
女の人はザクッザクッっと
何でも無いように
更に山の方に歩いて行ったそうです。
『えっ、そっちはそれこそ
ホンマに何にも無い山の中やのに!』
と思ってから、
ハッと
『ほんで俺な、あぁ、なるほど。
これが狐か。』
と唐突にわかったそうです。
おじさんは地元の人で、
子供の頃から、お祖父さんお祖母さんの語る
『狐が化ける』はなしを聞いていたそうです。
でも、見たのは初めてだったそうです。
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