怪・その12
「4階の手すりの向こう」
私が小学校4年生だった時の話です。
当時、住んでいたのは、マンションの4階でした。
お昼に学校から帰って、
自宅玄関前に到着する直前に
鍵を出したとき、
ドアと向かい合う手すり壁の外側から
急に
「灰色の手」が一瞬出て、
壁をつかんだと思ったら
下に落ちていきました。
あまりの出来事に、
「なんだ??」と固まってしまって
動けなくなった私。
そして、その「灰色の手」が
本当はなんだったのか
確認しようかと思いました。
出てきた手すり壁から
下の地面の方をのぞきこむか、
それともちょっと先にある
らせんの非常階段から、下を見てみるか‥‥。
でも、なんだか怖くなって、
あれは鳩か何かが上から落ちてきたんだ! と
無理やりに思うようにして、
何もせず鍵を開け、自宅に入りました。
それから、両親にも誰にも言えず、
そのうち忘れてしまっていたのですが、
大人になってから、
友達となんとなく恐い話をしていた時に
ふと思い出して、
自分の唯一の体験談として話したら、
「見に行かなくてよかったよ!」
と友達が言うので、
「なんで?」と聞いたら、
「上からのぞいたりしたら、
連れていかれたよ!」
と言われました。
そんな事を聞いてしまった私は、
あの時、のぞかなかった自分を
ほめてやりたい気持ちになりました。
そしてこの話は
もう二度と忘れられない
思い出となってしまいました。
(あちこ)