怪・その28
「本家でかくれんぼ」
毎年お盆には
本家に親族一同が集うのが慣わしで、
子供だった私は
従兄弟達と遊べることが何よりの楽しみでした。
母方の祖父母の家は田舎の大きな百姓家で、
玄関木戸を潜り、
広い通り土間を抜けて厨や味噌蔵、
漬物蔵から茶の間や次の間を経て、
その先のお座敷に続くような広い平屋は、
昼間でも電気が必要な薄暗さで
子供には怖いような雰囲気でした。
その年も賑やかに遊んでいたのですが、
誰が言い出したのか
「かくれんぼ」をしようということになりました。
どこに隠れようか迷ったけど、
少し勇気が必要だったけど
従兄弟達に見つからないよう
皆が怖がってけして近寄らなかった
一番奥の小部屋に隠れることにしました。
そこは以前叔父の部屋でしたが
長く納戸代わりとなっており、
廊下や納戸、空き部屋のその向こうにあり、
昼間でも暗く、怖く、
私は勿論、従兄弟達も近づかない所でした。
入り込んだものの
怖くてたまらずに机の下に潜り込み
膝を抱えて目をきつく閉じ、
早く誰か見つけてくれないかと待ってました。
一分が長く感じられ
時々薄目を開けて入り口を見ても、
誰の気配も足音も聞こえず
心細くてなりませんでした。
暫くして
うずくまっている私の頭を
誰かがそっと指で押したのです。
多分、人差し指でした。
一回、二回‥‥。
「あー、良かった!見つけてくれた!」
と、怖かった私は残念に思うより
ホッとして顔をあげました。
頭の上には机があり、誰もいません。
振り返っても後ろは壁。
木の棒でも使ってつついて
私を脅かそうとしてるのかな?
机の下から這い出し、部屋を見回しました。
誰もいません。
その瞬間、私は駆け出していました。
従兄弟達の声のする表まで走り抜け、
「今、いたずらしたのは誰?
頭つついたでしょ?」と叫びました。
皆、私が見つからないので
別の遊びを始めていたと言うのです。
誰もあの小部屋に行ってはいないと言うのです。
嘘じゃないと。
そしてかくれんぼしようと言い出したのが
誰なのか、誰も思い出せないのでした。
確かにその時は怖かったし、
人差し指の感触はずっと鮮明だったけど、
けして恐怖だけでなく、
ご先祖さまのどなたかが
どこか親しみをこめてつついたような感じがして
今では懐かしい思い出になっています。
(k)