怪・その30

「猫と、渡り廊下」

30年程前のことです。

当時の私の部屋は
増築した棟にあって、母屋には
棟同士をつなげている渡り廊下を通らなければ
行けませんでした。

中庭を挟んだ建物だったので、
渡り廊下は5メートルほどあり、
ちょうど真ん中には
左右に掃き出し窓がありました。

その夜、
一緒に部屋にいた飼い猫を抱いて、
渡り廊下への扉を開けかけた時、

猫が突然、フーッ!!と

毛を逆立て、

私の腕に爪をたてました。

抱かれることが大好きな猫だったので、
『どうした?』と猫を抱きなおし、
ふっと顔を上げると、

開き切った、渡り廊下への扉の、
ちょうど私の目線と同じ高さに、

真っ黒な長い髪の毛がうねうねと空中に舞った

男とも女とも分からない、

激しい形相の生首が浮いていて、

私を睨みつけていました。

あまりの事に声も出ずにいた私でしたが、
腕の中の猫が再び、私の腕に爪を立て、
今度は、唸るような声で
「ギャォォォ‥‥」と、
喧嘩をする時のような声を出したかと思うと、
あっという間に、
渡り廊下に向かって飛び出しました。

すると、生首は、

目玉をぐるっとまわした後、

猫に追われるように、
そのまま掃き出し窓のところまで下がり、

突然、キュポン! というような、
変な音と共に窓ガラスを通り抜け

外に出て行ってしましました。

猫を追うように私も
渡り廊下を進み、
私が窓から外を見た時には、
通りを挟んだところの大きな竹藪の中が、
何となく光っているような感じはありましたが、

生首はもう見えなくなっていました。

猫はしばらく、
外に向かって唸り声をだしていましたが、
ふっといつものように、抱き上げろ! と
私の足にまとわりつきはじめたので、
それでようやく、
私も止めていた息を吐きだすことができました。

それから私は実家を出るまで、
夜中は猫と一緒にしか
渡り廊下を通らないように用心をしていました。

それ以来、生首は現れることはなく、
また、その数年後、竹藪はなくなり、
半分は道路に、もう半分は新しく住宅が建ちました。

飼い猫は亡くなるまで、
その渡り廊下で、竹藪側を向いて
いつも昼寝をしていましたが、
それがあの生首のせいだったのかはわかりません。

でも、今でも
何となく嫌な気配を感じると、
その猫の名前を呼ぶようにしています。

(s)

こわいね!
2016-08-24-WED