怪・その39
「お決まりのごあいさつ」
ある日の朝のことです。
夢から現へと
意識が移行するさなか、
実家で飼っていたダックスフントが
鼻先で布団を持ち上げて
私の首元から潜り込み、
しっぽでバタバタと私の顔を叩きながら
お腹の方へ行っては戻り
顔を舐めるという
朝お決まりのごあいさつをしてきました。
そして枕元には
もう一匹飼っていたマルチーズが
興奮した息づかいで、
自分も潜り込もうかどうしようかと
右往左往している足音と気配がします。
まったく朝から騒がしい
と思いながら目を覚ましたところ、
部屋はしんと静まり、
そこにいるのは私一人だけでした。
この二匹が他界したのは
もう十年近く前のことなので
それも当然です。
私はありありと感じた
頬を叩く尻尾の感触を反芻しつつ、
しばし呆然と天井を眺めていました。
どう思い返しても
現実としか思えない感覚でしたから。
二匹がまだ生きていた頃、
この子たちを一番可愛がって、
一番なついていたのが父でした。
その父は
この子たちが生きているうちに他界しています。
天井を眺めながら
そんな父のことを思い出し、
「ああそうか。
父が二匹と一緒に様子を見に来たんだな」
と気づいたとき、
自然と納得がいったのでした。
今でもお盆の時期になると
あの朝の出来事を思い出します。
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