怪・その15
「こっちに向かって来る」
5年くらい前に建て替えてしまったのですが、
私の実家は
戦前からある日本家屋でした。
水屋と呼ばれる台所やトイレは
家の端っこの半分外みたいな所にあり、
そのトイレからすぐの所に
秋葉神社のちいさなお社がありました。
ボロかったですが、夜になると
あるはずの無い大きな朱色の鳥居が
見えたりしてたので、
ちゃんと機能してたのだと思います。
そこ自体は怖い感じはしなかったので、
何も思わなかったのですが、
そちらの方に向かって入り口のある
細長い納戸が、何故かすごく苦手でした。
昔の家というのは、
電気をつけても薄暗いもので、
奥の方は懐中電灯をつけないと
何があるか分からない状態でした。
その奥の方はじっと見つめていると
ブラックホールの様に空間が渦を巻いていて、
兵隊さんの行列
(テレビとかで見る出征の様子みたいな感じ)が
こっちに向かって来るのが見えるのです。
はじめはボンヤリしか見えませんが、
段々足音などが聞こえ、くっきり見えました。
一度だけ、近くで見ようと思って
我慢して見つめていたことがあるのですが、
構わず進んで来る先頭の人に蹴られそうになって
慌てて逃げました。
それからはどうしても
中のものが必要な時は
決して目線を奥にやらない様にして
生活していました。
中学を卒業する頃には見えなくなりました。
(r)