怪・その19
「犬と夜の散歩で」
忙しい職場にいた頃は
犬の散歩は深夜になることも多く、
その晩は家のすぐ目の前にある公園に行きました。
公園は本来は遊水地で、
水門や池があるため湿気が多く、
道の設計もちょっと妙で、
昼間でもあまり良い印象は受けません。
が、平時は一応は芝生の広場で、
ぐるりが桜並木の道なので訪れる人はけっこう多く、
深夜にマラソンやウォーキングをする
近所の人もそこそこいます。
その晩の散歩は
桜並木の下の道を回っていました。
葉桜が鬱蒼と茂ったあたりに差し掛かった時、
前方から歩いてくる男の人とすれ違いました。
父でした。
父は世代のわりに背が高く、
猫背気味でひょこひょこと体を揺らすような
歩き方をする人でした。
若い時から銀髪に近いほど白髪が多く、
「ロシア人に間違えられた」と
嬉しそうに自慢していた髪のシルエットも
そのままだったような気がします。
ただ、すれ違った顔は、
デッサンの鉛筆で斜線を重ねて塗りつぶしたように
黒くて、容貌は判別できませんでした。
照明設備に乏しい公園で暗いとはいえ、
周囲が住宅地ということもあり、
真っ暗闇というほどではなかったのですが。
その頃、父はもう亡くなっていたので
さすがに驚き、
犬に
「め、め、め、Mちゃん!(犬の名)
い、い、い、今の、パ、パパに似てましたね!?」
と、ひっくり返った大声で話しかけてしまいました。
犬は特に唸ったりもせず、
変わらずご機嫌でしたが、
怖くなった私は犬を連れてすぐ家に帰りました。
(るう)