怪・その24
「うらやましい体質?」
これは、数年前の夏の夜のお話です。
その日は家族四人で
母方の実家へ遊びにいっていました。
夜、11時半過ぎだったと思います。
四人で車に乗り、
実家から我が家へ帰る途中でした。
運転席は父、助手席には弟、
後部座席に私と母が座っていました。
山間のトンネルを抜け、
ゆるやかにカーブする下り坂に
差し掛かった瞬間。
助手席の弟が叫びました。
「ちょっと!! なんで!!」
突然の大声に驚いた私達は一瞬の静寂の後、
「な、なに? どうしたの」
と、弟を凝視しました。
「今、小学生が飛び出してきたじゃないか!
なんで止まらないんだ!」
弟は信じられない、
と言った顔で運転していた父に訴えましたが、
父はそんなもの見ていない、と一言。
「いや、飛び出してきたじゃないか。
対向車線からこっちの車線に・・・」
詳しく聞くと、弟がみたものとは、
対向車線側からこちらの車線へ
走って横断しようとする、
ランドセルを背負った子供だったそうです。
ぶつかりそうになった瞬間に、叫んだと。
運転していた父を含め、私達も
何かにぶつかったような衝撃は一切感じませんでした。
「‥‥この夜中、11時半に、
こんな民家もない山道を渡る小学生がいる?
しかも、ランドセルを背負って‥‥」
と母がいうと、弟も
そのものの異様さをやっと認識したかのように、
青い顔で黙り込んでしまいました。
その後、私たちは何事もなく無事に家につき
車も確認しましたが、
傷ひとつついていませんでした。
普段、弟は怖がりで
心霊番組やホラー映画なども一切見ません。
けれど、私達家族の中で唯一、
そういったものを見てしまう体質のようです。
反面、私はホラー大好きなので、
ある意味うらやましいと思う事もあります。
けれど、やはり見えないことは
幸せなのかもしれませんね。
あの時助手席で、弟はぽつりと言っていました。
「そうか‥‥そうだよな‥‥
夜中にランドセル背負って、はだしで‥‥
そんなものいるわけ、ない‥‥」
(ぱる)