怪・その37
「車両にはひとり」
不思議な体験で思い出すのは、
大学生の時に、
遠くの大学まで
電車通学をしていた時の話です。
地元は電車が単線で本数も少なく、
講義やアルバイトで
遅くの電車に乗ると、
時間によっては目的の駅に着くころには
一車両に自分一人だけ、
ということもよくありました。
ある日、アルバイトで遅くなり
電車に乗った直後から
うとうとと眠くなって
目を閉じていました。
しばらくすると肩を叩かれ、
『鞄が落ちましたよ。
そろそろ降りる駅ですよ』と
声をかけられました。
私はびっくりして、
ありがとうございます、と
目をこすりながら
鞄を受け取ったのですが、
周りには誰もいませんでした。
たしかに肩を叩かれたり
鞄を渡された手の感触も
あったのですが、
誰もいませんでした。
その後もその電車を
利用していますが、
不思議な出来事は
その一回だけでした。
(m)