怪・その45
「若い将校さん」
怖いというよりは物悲しい体験をした
僧侶である父から聞いた話を投稿します。
ある陸軍墓地があります。
看板もなく、地元の人でも、
そこが陸軍墓地で、西南戦争以降、
第二次世界大戦に至るまでの
多くの戦死者の霊が祀られている墓地であることを
知る人は少ない、ひっそりとした墓地です。
父の所属するお寺では、毎月一回、
その墓地の清掃およびお坊さんによるご回向を
ボランティアで行っています。
その日も、信者さんたちとの墓地清掃を終え、
回向堂で父がご回向を始めたところ、
父の斜め横あたりに
誰かが立っている気配がしました。
最初は信者さんの誰かだろうと
気にも留めずにご回向をしていたのですが、
目の端に気配を感じる程度であるのに、
その人が若い男性であること、
教科書に出てくるような
旧日本軍の兵隊さんのような制服を着ていること
がわかりました。
怖い感じは全くせず、その人からは
とても物悲しいような雰囲気が伝わってきました。
父がその方向を振り向いても
やはり誰も立っていなかったのですが、
気になって毎回、
墓地清掃に参加している信者さんに聞いたところ、
若い将校さんと思われるような兵隊さんで、
決して怖がらせるような様子はなく、
悲しそうに回向堂に立っている様子を
これまで多くの人が目撃している、とのことでした。
父は、自分の息子ほどの年齢の
若い兵隊さんが遠方で悲しい最期を遂げて亡くなり、
このひっそりとした陸軍墓地に祀られたものの、
未だに成仏できずにいるのではないかと思うと
自然と涙が出てきて、その兵隊さんだけでなく、
これまでの戦争で亡くなったすべての人のご回向を
もう一度最初からじっくりと
時間をかけ、思いを込めてやり直したそうです。
後日、その信者さんが、
「あの日のご回向以来、
若い将校さんをみかけることがなくなりました。
やっと成仏できたんでしょうね」
と話していたそうです。
(たえこ)