怪・その46
「面会謝絶の部屋」
10年以上前、
ぎっくり腰で入院していたときの話です。
症状は思ったよりも軽く、
なるべく歩き回って下さいと言われていたので、
トイレも病室のではなく、
廊下にあるトイレを使用していました。
そのトイレの少し先にある病室には、
『面会謝絶』と書いてありました。
入院して数日経った頃、
夜中にトイレに行きたくなったのですが、
夜の病院の廊下って
薄暗くて怖いだろうな〜と思って廊下に出ると、
意外にも明るくて、
廊下の端から端までハッキリと見える感じでした。
部屋を出たときには
全く気づかなかったのですが、
もうすぐトイレという時に寒気がしたのです。
2月だったので、寒いのは当然ですが、何か違いました。
ふと廊下の先に視線をやると、
あの面会謝絶の部屋の前に
しゃがみこんでいる人がいます。
『こんな夜中に?』
と思うと同時に
『見てはダメだ』と感じました。
トイレから出るときも、
そちらの方は見ずに病室に戻りました。
次の日、何となくその病室の前まで行くと、
面会謝絶の張り紙は無く、
部屋もキレイに片付いていました。
もう長く入院している隣のベッドのオバチャンに
その部屋の事を聞いてみると
『ああ、あの部屋の人は、
昨日のお昼に亡くなったみたいよ』
って‥‥。
私が見たのは昨夜‥‥
『ひ〜〜っ!!!』
って思ったのですが、同じ病室の人には、
その事は話しませんでした。
しばらくして退院することになり、
荷物をまとめてエレベーターで
1階に行く途中、一つ下の階に止まりました。
でも、誰も居ません。
「閉」ボタンを押して、
1階まで下りてエレベーターを出る時に、
荷物を持っていた手を
誰かに『ギュッ』と握られました。
もうあとは何も考えずに病院を後にしました。
『あれは一体何だったんだろう?』
と、考えるのもイヤです。
(ぼる子)