怪・その47
「隙間からの声」
高校生くらいの頃の話です。
暮らしていた実家で、妹と私は、
もともと一続きの部屋を、
本棚を仕切りに二部屋に分けて使っていました。
本棚の高さはまちまちで、
高い棚に挟まれた低い棚の上が、
細長い隙間になっているところがあります。
そこからよく隣に話しかけたり、
ものの受け渡しをしたりしていました。
ある夜、
私はちょうど隙間が見えない位置で、
机に向かっていました。
そろそろ寝ようかな、と思っていると、
その隙間のほうから
「オイ」
と聞こえました。
呼び掛ける「おーい」というよりは平坦で、
「甥」に近い発音。
振り向いても、何もいないし、ありません。
なんとなく隙間を覗くのがためらわれ、
隣の部屋に歩いて行って、
妹に、呼んだか聞いてみましたが、
逆に
「お姉ちゃんが呼んだのかと思った」
と言われました。
思い返してみれば、聞こえてきた声は低く、
知らない男の人の声でした。
私でも妹でもあり得ません。
それ以来、あの声は聞いていません。
もしあのとき隙間を覗いていたら、
私は何を見たのでしょうか。
(糸口)