怪・その3
「廊下の鬼」
これは私が幼稚園児のころ、
祖父母の家に泊まりに行った日のことです。
祖母はキッチンで夕食を作り、
祖父は出掛けており不在でした。
外はすでに暗いため公園へは行けず、
私は1人で部屋で遊んでいましたが、
そろそろ祖父が帰ってくるだろうと思い
リビングで待ってました。
祖父母が住んでいる家は、
玄関から入るとまず廊下があり、
その先の大きいガラス戸を開けると
リビングとキッチンがあります。
しばらくすると、
ドア越しではありましたが
廊下の方から物音がしました。
祖父が帰ってきた、
そうだ、祖父を驚かそうと思い、
こっそり玄関を見ようと
ガラス戸に顔を近づけた時です。
鬼の顔が目の前にありました。
頭から2本の角が生え、
怒ったように目が釣り上がり、
開かれた口からは
下から生える鋭い牙が見えました。
驚いた私は、咄嗟に後退りました。
ですが、そういえばその少し前に、
幼稚園で節分の鬼の仮面を作ったのを
思い出し、
これは祖父がいたずらを仕掛け、
まんまと私は引っかかったのだと思いました。
「おかえり! おじいちゃ‥‥」
笑いながらガラス戸を開け廊下を見ると、
祖父はいません。
廊下の途中にある部屋に隠れたのか!
とすぐに見に行きましたが、誰もいません。
そもそも廊下にあるトイレや洗面所、
部屋は全て扉が閉まっているので、
私を驚かせたあとに急いで隠れても
足音や物音がするはずです。
リビングへ戻り
キッチンに立つ祖母へ話に行きました。
「ねえ、おじいちゃん帰ってきたよね?」
すると背を向けたまま祖母は言いました。
「帰ってきたら玄関から音がするでしょ。
まだ帰ってきてないよ」
腑に落ちなかったのですが、
この場に祖父はいないので
祖母の言う通りだろうと思うことにしました。
実際に祖父が玄関のドアを開けた時は
私が聞いた物音とは全く違い、
鍵を開ける音、風の通る音、
リビングのガラス戸が震える音がしました。
あの鬼は一体なんだったのか、
社会人になった今ふと思い出します。
そして、当時の私は身長が100cmほどでしたが
鬼を見た時、
ちょうど私の顔の高さに顔がありました。
高さを合わせてくれたのでしょうか。
(t)