怪・その16

「月が2つある」


私の父の話です。
父は戦争に行きました。

滅多にその話はしませんが、
ある、月が出ていた夜に、
話してくれたことがあります。

父は、所属する班の班長をしてました。

班員のTさんが訓練中に亡くなり、
寮の部屋で、そのTさんの話をしてました。

4人部屋の1人がいなくなり、
しんみりとしていました。

空気を変えようと、
父が窓を開けました。

その日は満月。

綺麗な満月が、2つ‥‥。

「今日は、月が2つあるぞ、見てみろよ!」

みんな見に来ました。


「バカ、

あれは火の玉じゃ!」


その叫びと同時に、みな机の下に隠れたり、
布団に潜りこんだりして、震えたそうです。

父は、Tさんが
みんなにお別れに来たのかな、といってました。

その時は怖かったけど、と。

話のあと、淋しそうだった父を、思い出します。

(b)

こわいね!
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2019-08-15-THU