怪・その16
「月が2つある」
私の父の話です。
父は戦争に行きました。
滅多にその話はしませんが、
ある、月が出ていた夜に、
話してくれたことがあります。
父は、所属する班の班長をしてました。
班員のTさんが訓練中に亡くなり、
寮の部屋で、そのTさんの話をしてました。
4人部屋の1人がいなくなり、
しんみりとしていました。
空気を変えようと、
父が窓を開けました。
その日は満月。
綺麗な満月が、2つ‥‥。
「今日は、月が2つあるぞ、見てみろよ!」
みんな見に来ました。
「バカ、
あれは火の玉じゃ!」
その叫びと同時に、みな机の下に隠れたり、
布団に潜りこんだりして、震えたそうです。
父は、Tさんが
みんなにお別れに来たのかな、といってました。
その時は怖かったけど、と。
話のあと、淋しそうだった父を、思い出します。
(b)