怪・その17

「私だけは知っている」

弟が、車の事故で亡くなりました。

相手があり、お互い亡くなる、悲しい事故でした。

ブレーキ痕などでわかる範囲ですが、
弟はかなりスピードを出していたようで、
周りからは、声に出しては言わないけれど、
スピード違反をした弟が悪い、
という気持ちが伝わってきていました。

事故からしばらくたって、
実況見分が終わったので、
事故車を取りに来てくれと、
警察から連絡がありました。

母は行きたくないというので、
私と父が、仕事を抜け出し、
警察署に向かいました。

父より早く着いたので、
駐車場で一服しようと、
タバコに火をつけて
ボンヤリしていたところ。

突然左側から、
シルバーのセダンが、
ものすごいスピードで私の車に突っ込んできました。

ビックリして、体が硬直しました。

でもそこは警察署の駐車場。
車なんて突っ込んでくるわけもなく、
何が起こったのかまったくわからず、
呆然としているところに父がやってきました。

頭が混乱したまま、
車の保管場所まで
警官とともに歩いて行きました。

角を曲がった瞬間、息が止まりました。

先程、私に突っ込んできたシルバーのセダンが、
目の前に停まっていたのです。

聞けば、相手方の事故車とのこと。
相手の車種や色は
まったく聞いていなかっただけに、驚きました。

その時に、やっと分かりました。
さっき見えたものは、

弟が最後に見た映像だったということ。

10年以上前なので、
ドライブレコーダーもありません、
目撃者のいない夜中の事故。
事故のことを証明してくれる人は、誰もいません。

弟が、スピードを出していたことは確か。
弟だけが悪いと、皆が思っています。

でも、私だけは、知ることができました。

弟だけが悪いんじゃないこと。

相手もかなりの勢いで、
弟の車に突っ込んできたこと。

それを、弟自身がとても驚いたこと。

最後に残った弟のビジョンを、
私は、一生忘れません。

(to)

こわいね!
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2019-08-15-THU