怪・その32
「私たち以外にも」
夫が高校生の頃の話です。
部活で夏合宿をすることになり、
船で1時間半の離島へ行きました。
格安で泊まれる、公共の宿泊所があったのです。
部活の練習をし、海で遊び、
楽しく過ごして、夜のお喋りタイム。
部屋での飲食は禁止なので、
それぞれお菓子や飲み物を持ち寄って、
交流所という名の離れ棟へ移動しました。
みなのおしゃべりがはじまって間もなく、
黙り込んでいた女子が立ち上がり、
「疲れたから帰る」と言い出しました。
すると、「私も」と3人くらいが立ち、
自分たちの部屋へ帰って行きました。
休み明け、
2学期に部活で顔を合わせた時、
部屋に帰った1人が、ぼそっと言いました。
「あの時ね、私たち以外にもいっぱいいたよ」
すると、同じように部屋に帰った面々が口々に
「実は私も見た」「自分も」と言います。
「子供を抱いた女の人がいたね」
「あの人、血だらけだった」
「部屋のあそこに首のない人もいた」
「T君の隣にいた人から話しかけられたよ」
「ああ、あんた、見えるのねって言われた」
「目を合わさないようにしたけど、恐かったね」
見える人たちが見たものは、
すべて同じだったそうです。
複数の人が同時に同じものを見たなら、
それは本当に「いる」のかもしれない、
と同級生はみな思ったそうです。
その島では沖縄戦で
大勢の島民が集団自決をしたと、
彼らはずっと後になって知ったそうです。
(m)