この不思議なお話は、前回からの続きとなっています。
第1回からお読みください

『トントンさん』その3

「わざわざこの時期に、しかも何通にも分けて、
 『怪談』が届くのって、なんだか、気になる」

「『怪談』にオチがないのは珍しくないけど、
 この結んだ紐とか、リアリティがある」

「取材してきたらいいよ。何なら泊めてもらったら?」

社内の、取材を後押しする声にわたしは、

いやでも、「それっきり」、って書いてあるし
いまさら行ってもなにも新しいことはなさそうだし
泊まってみたらなんて
あなたなに言っちゃってるんですかわぁぁぁー。

と、頭では拒否しつつ、
どこか、行ってみたい気持ちがありました。
怖がりの自分には、めずらしいことです。


そして、6月の某日。
長野県上田市は
青空が広がる良い天気で、
目的の家は、遠くに山波が連々と続き、
目の前に田んぼの広がる
開けた気持ちのよい風景の中にありました。

迎えてくださったのは、
母屋の敷地の中にある、蚕部屋だったところを改造した
平屋におひとりでお住まいの
ばあちゃんこと、お母さまと
メールをくださったK子さん、
今は20歳を過ぎた、娘のS子さんです。
ほぼ日 今日はありがとうございます。
おふたりには京都からいらしていただいて、
すみません。
K子さん いえいえ、こんなところまで来てもらって。
ほぼ日 案外近かったです。
このあたりは、上田城の城跡とか
史跡もいろいろあるんですね。
お母さま ええ、
ほかに武田信玄に滅ぼされた城もあって、
上田の合戦もあってね。私、歴史が好きなので。
ほぼ日 うしろの母屋は、
築80年だそうですね。蔵もあって。
歴史のある感じがしました。

‥‥あのう、最後にそのことがあったのが、
7、8年前とのことですが。
お母さま 17、8年ね。平成のね。
ほぼ日 その前から、S子さんは、
よく1人でここに来てたんですか? 京都から。
お母さま うん、京都からね。
春休み、夏休み、冬休み、全部来てたんです。

で、私と2人で騒いでるの(笑)。
楽しくして、寝て、喋ってたら、枕元で、
(畳を叩きながら)
トントン、トントン、スットントンとこう。
ほぼ日 あれ、そんな大きな音なんですか。
お母さま 大きな音なんですよ。

(指を立てて、畳を強く叩く。ドンドン、ドドドン!)
ほぼ日 えぇっ?
お母さま その畳をね、(ドンドン叩く)、
こんな音ですよ。
すごく大きくて、すごい近い。

それから、もう、ザザザーってやるの。
畳をザザザザーって。

畳だけじゃなくて戸も叩くし、開けちゃうし。
元気よく、パンパン、開けちゃうですよ。
私、戸が開いてるの知らないで、転んだんですよ、
だから(笑)。
ほぼ日 ええっ。(笑)
お母さま 私たちが後ろ向いてる時にやるんですよ、いたずらは。
この引き出しがきれいにこう、
段々に開いてたっていう引き出し。

カーテンも全部括ってね、私、やろうと思っても、
できないですよ。きれいに、こう括ってね。
「ばあちゃん、なんだか、明るいよ」
って言うからパッと見たら、
括ってあるの。笑いましたよ。
ほぼ日 このちゃぶ台、もしかして‥‥。
お母さま これ、回るの、知らなかったの。
2人でね、そこで向き合って、テレビ見てたら、
お茶が、ガチャガチャ言うんです。
「あ、あ、あ、あ」って言って。
知らなかった、それまでね、上が回るの(笑)。
ほぼ日 はぁ〜。
お母さま でもね、この家に何かいるとかではないんです。
ほぼ日 はぁ〜‥‥え?
お母さま ここは、蚕飼ったりね、
物置にしたりしてたお家で。
特別変なことがあった場所だとか、
そんなのないし、
母屋の方でも、誰か不幸な亡くなり方をしたとか、
ないんです。

だから、S子とわたしの、
気の持ち方が原因かと思うんですよ。
どうも2人の間の。
K子さん 新事実が発覚しまして。
ほぼ日 えっ、えっ?
K子さん 一番最初に、母が、うちの、
京都の私の家に来た時に、
そこからはじまったらしいんです。
私も知らなくて。
お母さま 私は上田から京都へ嫁いで、
K子が生まれて、この人は京都育ちです。
10年くらいまえに、私はひとりで、
姉が母屋にいるここへ、戻ったんです。

そのあと、京都に遊びに行った時、
S子とバドミントンをしていたら、
小石がパラパラ降ってきて。
S子さん 瓦があって、屋根の上から小石が、
コロコロ落ちてきたり。
お母さま 「S子ちゃん、散歩行こう」って、行くとね、
私の背中に、こんな大きな石がね、
当たって、ポトン、ポトンと落ちるんです。
ほぼ日 それは危なくないんですか?
お母さま ポーンと来て、ポンと当たって、落ちるだけ。
全然、痛くない。
S子さん 私も、頭に当たったで。
お母さま 家からね、角を曲がるまで
100メートルくらい、何回も。
2人でいるとき。

上を見たら2階にいる人がいて、
石が落ちてくるんですよ、って言ったら、
「カラスじゃないですか」って。
S子さん いっぱい石が落ちてきたから、
掃除したん、覚えてる。
ほぼ日 はじまりは、京都だった。
お母さま それからS子が上田へ遊びに来るようになって、
最初は、音がして、ネズミかなって、「キャー」って。

京都から私が連れてきたのか、
S子ちゃんについてきたのか。
「座敷童かな」なんてね、S子ちゃんとはね、
遊んでたのね。
K子さん 私は京都の時も、なんか言ってるなあ、
と思ってたぐらいで、
S子がやってるんだろうと思ってました。

で、7年前にS子と上田へ遊びに来て、
その時もふたりが夜、
和室で「キャー、キャー」騒いでいる時も、
うるさいなあって、こっち(応接間)で
テレビを見てて。
お母さま だってあなた、聞かないから。

でもほんとうに不思議だった。
花火の時の話、
見てたって言うから、
「太鼓叩いてたの、何人いた?」って言ったら、
「15人」、トントン、トントン、って、
ほんとにちゃんと、15人いたんですって。

それから、わたしのお友だちの年を聞いたら、
知ってるの、年。お友だちの。
私はいつも遊んでてね、でも知らなかったんだけど、
その人を知ってて、ちゃんと年を。

別所温泉に行った時も、
ちゃんとついて来るみたいで、帰ってからね、
「洗う所いくつあった?」って言ったら、
「4つあった」って、トントントントンって。
「お風呂入った?」って言ったら、
「入らない」って言うの。
S子さん 布団が、こう、寝てて、被さったのは覚えてる、
下からこう、パーッてなったのは覚えてる。
お母さま そうそう、布団を。
あと布団の中で懐中電灯、パッと点けて、
パッと天井照らして、パッパッパッて、
夜中にやるの。
そのうちにね、今度、お布団の中に入れてね、
パッパッパッてね、
S子ちゃんの足元の辺でやるわけ。
笑いましたよ。
じっと見てたら、パッタンって倒れたね。
S子さん うん。
お母さま それはあっち(母屋)の方からも見えたって。
K子さん 1回だけ、ここで、母の枕のここで、
ポンって鳴ったのは聞いたんですけど。
S子がやってると思って。
ほぼ日 布団たたきで、叩かれたとか。
お母さま その、かけてあるのがね。
わたしを叩くの。
ほぼ日 これですか!
あのー、ほんとに、布団たたきですね。

すみません、なんというか、
なんて言えばいいか、
まとまりがつかなくて。
お母さま 私だって、もう何しゃべっていいか、
わけわからない。(笑)

あそこにあるクッションがポンポン飛んできたり、
わたしが台所にいると。
ここまで飛んでくるんです。投げてくるの。
S子ちゃんはここにいるの。
で、「今日は、S子ちゃん、
京都に帰るからね」って言ったら、やたらと。
K子さん 嫌なんだ、きっと。
寂しくなるから。
お母さま 「行くな」っていうことか、なんかね、
ポンポン投げてきてね。こんな枕も投げたね。
今、出してないけど、実際ね。

どういうことだかね、わからない。
私も霊感がないし。
そういうことを信じてもないし。
ほぼ日 信じてもいない。
お母さま でもこの子がね、
6年と、中1、中2くらいまで、来たね。
S子さん うん。
お母さま 春、夏、秋、冬、来た。そのたび、やるの。
でもね、不思議と怖くなかった。
この他にも、
たくさんのエピソードが語られます。

酔っぱらいが嫌いらしく、家に来て帰ったあと、
お手玉をポンポン投げたこと、

お母さまの髪の毛がぐーっと引っ張られて、
その髪がぴーんと伸びているのを
S子さんが見ていたこと、

時計や靴下が飛んできたこと、

足し算や引き算をしたこと、

好きな食べものを聞いたこと、など、など‥‥。

お話をうかがったのは昼間で、
外は明るい光りが溢れ、家の中も電灯をつけなくて
じゅうぶんに明るいくらいでした。

さらに、お母さまと孫のS子さんはもちろん、
娘であり母であるK子さんもふくめて
3人はとても仲が良いことが感じられました。

わたしは、なにか楽しい感じすらしてきました。


しかし、
実際にその場にある畳やテーブル、クッション、
布団叩き、カーテン、などなどなど‥‥。

ふと、目に入るたび、
かすかに肌がちりちりと粟立つようでした。
<続きます。>

「ほぼ日の怪談」本編は、8月より開始。
ただいま投稿を募集しています。

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なにか思い出されましたら、
どうぞ、教えてください。

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または体験した人から聞いた
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もちろん、「ほぼ日の怪談」を読んでの感想でも、
結構です。

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2013-07-30-TUE

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