── |
僕も以前、大船渡の漁師さんを
インタビューさせていただいたときに
「カッコいい!」と
本当に、心から思ったんですが‥‥。
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和枝 |
そうでしょう?(笑)
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── |
まずは順を追って、おうかがいします。
今回、おふたりは、どういった経緯で
この「漁師カレンダー」をつくろうと?
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和枝 |
漁師さんって、
「現場ではたらく人」じゃないですか。
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── |
はい、まさに、大海原で。
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和枝 |
そういう人たちの「すごさ」を
もっともっと伝えられたらいいのになって、
まずは、そう思ったんです。
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── |
漁師さんの、すごさ。
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和枝 |
段階つけるわけじゃないんです。
段階つけるわけじゃないんですけど、
現場ではたらく人って
綺麗なオフィスではたらく人とくらべると
なんだか、
すこし軽んじられているような気がして。
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── |
なるほど。
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和枝 |
でも、漁師さんたちを見ていると
「オフィスではたらく人は知的な仕事、
現場ではたらく人は
あたまじゃなくて体を使う肉体労働」
という見かたが
ぜんぜん間違ってるなあって思って。
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紀子 |
たとえば、さっきの「船頭さん」には
ものすごく高い能力が要求されているんです。
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和枝 |
そう、死と隣合わせの海の上で
船の行き先から何から、ぜんぶ決める人ですから。
そのための知識がなきゃならないし、
理数系のあたまだって良くなきゃならないし、
乗組員をまとめあげる
人間としての「幅」がなきゃならないし、
覚悟だって、なきゃならない。
ありとあらゆる総合的な能力が、
高いレベルで、必要とされている人なんです。
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── |
なにしろ
「いのちを預かるリーダーシップ」ですものね。
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和枝 |
絶対に、並の人には務まらないです。
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紀子 |
でも、そんなすごい人たちなのに
「ああ、現場の人ね」みたいに思われて
若い人の憧れの対象になり得ていないとしたら、
ものすごくもったいない。
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── |
うん、うん。
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和枝 |
気仙沼で「現場の仕事」といえば、
何といっても、まずは漁師さんなんです。
漁師さんがいてこそ、
大部分の気仙沼の仕事は回り出すんです。
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紀子 |
気仙沼の産業の、核になっている人たち。
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和枝 |
そういう人たちにたいして
私たちは
敬意を抱いているし、憧れてもいるんです。
でも、今の若い人たちには‥‥。
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── |
伝わっていない?
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和枝 |
はい、あの「すごさ」では伝わってないと
思っています。
現場の仕事に合っている若い人たちだって、
いるはずなんですけど、
高校を卒業したら、みんな大学に行って、
スーツを着る仕事に就くのがいいんだって
いまは、そうなっている気がして。
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── |
高校を卒業した時点で
「大学に行かず、漁師になる」という選択肢が
港町以外の人にあまりないのは
わかるんですけど、
それって、気仙沼でも事情は同じなんですか?
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紀子 |
今は、気仙沼でも同じだと思います。
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和枝 |
息子たちが高校を終わるときなんかも、
水産や漁業方面へ進んだ子は、極端に少なくて。
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── |
本来は、いろんな選択肢があるべきなのに。
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紀子 |
そう、偏ってしまっていると思う。
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和枝 |
それって、地元の高校を含めた私たち大人が
「気仙沼は漁業や水産業が核なんです」って
教えているにも関わらず、
その担い手がどれほどカッコいいか、
どれほど素晴らしい人たちか‥‥ってことを、
伝えてこなかったからだと思うんです。
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── |
魚を捕る、という仕事のなかには
口伝のようにして伝承されてきた技術とかも
あるんですよね、きっと。
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紀子 |
そう、そういう問題もあります。
そういうものって
文章で残されているわけでも、ないですから。
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和枝 |
世界三大漁場のひとつである三陸の海を
目の前にしてる私たちが
そんなことじゃダメだと思って、それで‥‥。
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── |
ただ、僕もいろいろと取材をするんですが
やはり
「身体を使って、はたらいている人」の話って
すごくおもしろいんです。
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和枝 |
あ、やっぱり、そうですよね?
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── |
話を聞いていると、カッコいいし、憧れます。
読者からも、そういう声がたくさん届きます。
ですからむしろ、
パソコンで仕事しいてる僕なんかからすると
個人的には
「憧れ」以上に「劣等感」すらある気がして。
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和枝 |
あら、そうですか。
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── |
だって、まずもって
「現場に出たらかなわない」というふうに
思っていますし、
「よーい、どん!」で競争したら
絶対に勝ち目がなさそう‥‥というか(笑)。
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紀子 |
ふふふ、そうそう。
もう、生き残りそうな人たちばっかりで
すみません(笑)。
でも、たしかに、パソコンだとか携帯だとか、
そういうものに頼らず生きていける
「人間の地の力」については
私たちなんかとは、何倍もちがうと思います。
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── |
危険を察知する感覚とかも、ありそう。
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紀子 |
この地球で生きていくという、
生き物としての力が、ぜんぜんちがうと思う。
だって、やっぱり、
ああ、この人たちがいてくれたおかげだって
いつだって思いますから。
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── |
右も左も陸地の見えない大海原で
いのちがけで魚を獲って帰ってくるのって
本当にすごいなあと思いますよね。
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和枝 |
だからこそ、他の仕事と同じように
若い人の選択肢のひとつになったらいいと思って、
で、それにはまず、
「漁師さんたちのカッコよさだろう!」と思って、
このカレンダーをつくりました。
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── |
なるほど。
では、あらためて「漁師のカッコよさ」を
教えていただけますでしょうか。
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紀子 |
漁師さんと言っても種類がありますけど、
遠洋マグロ船でしたら、
もう1年以上、沖へ行って帰ってこないんです。
360度見渡す限り海の上で
漁船という、あの狭いコミュニティの中で、
20人以上の男だけで暮らす。
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── |
思えば、ものすごいことです。
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紀子 |
家族とか恋人とか趣味とか、
いろんなことを犠牲にして船に乗っている。
何百キロも離れた沖で、
陸に残した人たちのために一生懸命、
魚を獲ってくれている。
そういう人たちのおかげで、
私たちは
お刺身が食べられたり、するわけですよね。
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── |
ええ、ええ。
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紀子 |
そういう身近なものごとのうしろには
遠くの海で
いのち張って魚を獲っている人たちがいるって
あらためて知ってほしいですね。
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和枝 |
ひとことで言うと、「愛おしい」んだよね。
漁師さんたちって。
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紀子 |
そう、そんな感じ! 「愛おしい」んです。
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── |
具体的には、どういう‥‥。
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和枝 |
たとえば、ぜんぜん知らない人だとしても
出船おくりのときには、涙が出るんです。
だから、いま、この出て行く船に
もし私の愛する人が乗っていたら‥‥って想像すると
どれだけ涙が出ることか。
なんだか、そういう感じで
船に乗ってる人たちって、「愛おしい」んですよ。
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── |
なるほど‥‥。
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和枝 |
あとね、海の男は「シャイ」なんですけど‥‥。
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── |
寡黙というような、勝手なイメージがあります。
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和枝 |
ええ、事実そうなんです。
海の素晴らしさだったりだとか
魚を仕留めたときの、心が躍る感じだとか、
そういうことについては
男らしい感じで
バババッと、ストレートに話すんですけど、
無駄なことは、一切しゃべらない。
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── |
やっぱり。
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和枝 |
でもね、
ああやって、大きな太平洋にポツンと浮かんで
魚を獲っているがために、
ふつうの男ならあんまり言わないようなことを
平気で言ったりもするんです。
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紀子 |
そうそう。「恋人」みたいなこととかね。
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── |
恋人?
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和枝 |
「絶対に会いたいと思う人がいたら、
どんなに困難があっても、会いに行くべ」
みたいなことを、ボソッと。
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── |
へえ、意外!
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和枝 |
言うんです。
滅多にしゃべんないような人が、
やっとしゃべったかと思うと、そんなことを。
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── |
はー‥‥。
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紀子 |
「え、それ言っちゃうの?」みたいなね(笑)。
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和枝 |
そう。聞いてるこっちがちょっと照れました、
みたいな感じのことを(笑)。
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紀子 |
その姿に、キュンとしちゃうよね!
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── |
キュンと。
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和枝 |
そうそう、もうキュンキュンと(笑)。 |
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<つづきます> |