三宅 中学生たちに新商品の開発をお願いして、
どんなものが出てくるかわからなくても、
「とにかく出す」と決め、その可能性に賭ける。
このやりかたはある意味、
「無茶ぶり」でもあると思うんですが、
そうした「無茶ぶりの文化」って、
ぼく、フットマークさんのひとつの特徴のような
気がするんです。
磯辺 うーん、「無茶ぶり」かなあ‥‥。
一同 (笑)
三宅 たとえばフットマークさんがつくったことで
新しいジャンルを生んだ商品のひとつに
「アクアスーツ」がありますよね。
水中ウォーキングやアクアビクスをしたい人向けの
全身用水着ですけど、
この「アクアスーツ」の新規事業部立ち上げで、
当時社長だった磯部さんは、
入社したばかりのコマダさんにいきなり開発を任せた。
これもフットマークさんらしいエピソードだと思うんです。
新入社員の方に新商品開発を任せるというのは
こわくなかったのでしょうか。
磯辺 うーん‥‥そこは「無茶ぶり」というよりも
「アクアスーツ」という、それまでない商品で、
自分自身ではわからないものだから、
できそうな彼女にお願いした、というだけなんです。
糸井 ええ。
磯辺 そもそものところをお話しすると、
12年くらい前か、もっと前だったか、
あるとき私「中野サンプラザ」のプールに行ったとき、
コースの1つで、中高年の女性が
立ったり座ったりを繰り返しているのを見たんです。
ほかの人たちはみんな泳いでるけど、
その女性だけは、水に浮いてみたり、沈んでみたり、
なんだか身体を動かしてる。
「何をしているんだろう?」と気になっていました。

そのときはわからなかったんですが、
その人は健康のためにプールに来ていたんですね。
水って「抵抗」があったり「浮力」があったり、
体を動かすのに絶好の場所ですから。
三宅 今だと、そういう水中運動用のコースが
あるプールもありますけど、
たしか当時は、ほとんどなかったんですよね。
磯辺 そうなんです。
水中運動のためにプールに行くのは、
そのころ非常にめずらしかったんです。
日本のプールというのは当時、
2万3,000ヶ所くらいあったんですけど、
どこも「泳ぐため」の場所でした。
そういう場所だから、当時のプールって、
競泳の選手や学校の先生たち、
子供たちくらいしか行かなかったんです。

だけどそのころも、
お母さん方がお医者さんに行って
「先生、美容や健康のために
 なにをしたらいいでしょうか」と聞いたら、
だいたい10人いたら9人の先生が
「プールに行かれることをおすすめします」
なんて言っていました。
とはいえ、具体的にどうとか教えてくれるわけじゃなくて、
みんな自己流でやってね、ということなんですけど。
糸井 ええ。
磯辺 それでお母さん方が
「ではプールに行きましょう」と思って、
まず何をするかというと、百貨店に行きます。
どうも都心のお母さんたちの間では
「百貨店にはあたらしいものがある」という
うわさ話が行き交っているようなのね。

だけど、百貨店の水着売り場に行ってみると、
置いてあるのはほとんどビキニ、
つまり若いお嬢さん方の水着が80~90%です。
あと10%ぐらい、競泳用の水着がちょこっと並んでる。
それでお母さん方から、
「お医者さんはプールがいいって言うけれど、
 私たちが着るような水着がないじゃないですか」
そういう声が聞こえてきた。

‥‥私、リサーチしたわけでも何でもないんですけど、
そういった話を聞いてきたので、
新入社員の彼女に「とにかくプール行ってね」って、
行ってもらったんです。
三宅 つまり、お母さん方のリサーチは
男性の磯部会長より、
新入社員のコマダさんのほうがいいぞ、と。
磯辺 もともとはそういう理由です。

ただ、そこで彼女が偉かったのは、
どんどん自分で考えて動いていったんですね。
たとえば「声を聞くにはサウナがいい」と発見して、
サウナに通ったりしていました。
どうも奥さん方は、運動のあとみんなでサウナに入って
「今日のコーチは良かったわね」とか話すらしいんです。
だからそのときに生の声が聞ける。
彼女はそんなふうにして、いろいろな声を集めてきました。

また、彼女はもともと大学で木工をやっていて、
「新しいものを一から形にする」のに慣れていました。
だから会社にある材料で試作品をつくって
近所のお母さん方に着てもらったり、
私の家内の友人たちに集まってもらって意見を聞いたりして、
アクアスーツを完成させていきました。

だから実際のところ、
ぼくには「任せる」も「任せない」もなくて、
そういうことを考えながらやれる人は、
彼女しかいないと思ったから、お願いした。
新入社員だからどうだとか、そういう発想はなかったです。
三宅 それは、任せられるほうとしてはどうなんでしょう?
今日はコマダさんの直後の後輩の
サノさんがいらっしゃいますけど、
サノさんは、コマダさんが切りひらいた
「飛び込んで、データを身体で取ってきて
 それを形にする」
というスタイルを、受け継がれてますよね。

サノ
目指したいとは思っていますが、
受け継げてますでしょうか。
ただ入社後、コマダのやってきた方法を聞いてそのまま、
「まあ、そうだよね」と理解していったので
受け継いでいる部分はあるかもしれません。

とりあえず、
「現場に通って地道に声を集める」というやりかたが、
当たり前なんだろうと思ってきました。
糸井 ‥‥うん、そうだと思います。
今のお話、磯部会長がおっしゃったことも、
サノさんがおっしゃったことも、
じつは「ふつうのこと」を言ってると思うんですよ。

「自分もわからないし、一から調べてやるしかないな」
というときには、新人かどうかよりも、
「この人ならひとりでやれるな」という人に、
任せるわけですよね。
また任された人もすなおに、
地道に自分がやれることをやっていく。

今お話を聞きながら、そういった、
なんだかとても当たり前のことを見事にやると
うまくいくんだな、という印象がありました。
三宅 つまり、
「無茶ぶり」というよりも
「自分で考えて動ける人に任せている」だけ。
磯辺 そうですね。
糸井 さきほど三瓶社長が、
フットマークさんでは「自ら」という精神を
とても大切にしているとおっしゃったけど、
そことも通じる話ですよね。 
三宅 ‥‥なるほど。
ただ、ぼくは今、それが新人でできるのって、
コマダさんやサノさんが、おふたりとも
「芸術系の大学出身だったから」いうことも
あるのかなと思いました。

芸術系の大学だと、学生たちにも
「正解は自分で見つけるものだ」ということが
共通認識として、できている気がするんです。

ぼくが教えているのは経営学部だからか、
どうも、今の学生たちの
新しい問題への向き合いかたって、
「自分で考えて解決する」のではなく
「どこかにある正解を教えてもらうもの」に
なってしまっている気がするんです。

わからないときには「先生に聞けばいい」。
答えはいつもどこかにすでに出ていて、
「それをいかに早く見つけるかが勝負」みたいな。
糸井 今は学校じたいがそういう場所だったりしますしね。
「先生=答えを知ってる人」みたいな。
三宅 そうなんです。
だからぼくは大学で、
「先生、答え何ですか」と聞かれるたびに、
「違うよ。正解は自分で見つけるんだよ」
って思うんです。
(つづきます。)
2014-02-05-WED