三宅 本日はこのような機会をつくらせていただき、
ありがとうございます。
今日は、特にテーマを決めずに、
フットマークのみなさんと「ほぼ日」のみなさんの、
「ざっくばらんな交流会」のようになればと思っています。
どうぞ、よろしくお願いいたします。
一同 よろしくお願いいたします。
三宅 まずはどんなお話から‥‥と思ったんですが、
先日、糸井さんと対談させていただいたときに、
(「未来の『はたらく』、見えるかな。」
未来の「あたらしいはたらきかた」を
模索する方法のひとつとして、
「会社に高校生たちを入れるのはどうだろう」
というアイデアがありましたよね?
糸井 ありましたね。
三宅 そこで思いだしたのが、最近フットマークさんでは、
「中学生たちと商品開発を進めている」そうなんです。
今日のお話の足がかりとしまして、
まずはそちらのプロジェクトについて
三瓶社長からお話しいただくのはいかがでしょうか。
三瓶 はい。三瓶と申します。
今日はよろしくお願いします。

うちのような下町のものづくり企業って、
よく中高生たちが見学にこられるんですが、
先日うちの会社に静岡から
2人の中学生が見学にきたんですね。
それで、その子たちがおもしろかったんです。

「将来の夢は?」と聞くと
「東大もいいけど、自分としては、
 もっとほかにやることがあるかもと思ってます」
と言ったり、
「今ほしいものは?」と聞くと
「車のジャガーがほしいです」と答えたり、
なんだか、予想していた中学生たちの答えと、
まったく違っていて、とてもおもしろかったんです。
「ジャガー」なんて彼ら、まだ運転もできないのに(笑)。
一同 (笑)
三瓶 まあ、人によっては「幼い」と思うかもしれない。
ただ彼らの答えには、ひとつひとつ
「自分の感じたことや、考えたことを
 しっかり表明しよう」という姿勢がありました。

うちの会社は「自ら」とか「自立」ということを、
とても大切にしてるんですけど、
なんだかその子たちにはすでに、
その「自ら」の姿勢が身についているように思えたんです。
三宅 その子たちというのは、ふつうの中学生ですか?
三瓶 ふつうといえば、ふつうの中学生です。
ただ、よくよく話を聞いてみると、
通っている中学校の教育方針が独特で、
とにかく「自分の意見を述べさせる訓練」が
徹底的におこなわれている学校だそうでした。

授業もほとんど教科書を使わなくて、
その半分くらい、生徒たちが自分たちで
相談して学習方法を決める。
掃除当番も、みんなひとりずつ
「自分がやりたい掃除」をプレゼンテーションして、
クラスみんなの投票で決まるんだそうです。
三宅 ‥‥変わってますね。
三瓶 そうなんです。
でも、その積み重ねのおかげか、
彼らは非常にはっきり、
自分の思いを口にしようとする子供たちでした。

それで、うちでは主力商品のひとつとして
子供たちの水着をつくっているんですが、
彼らに「自分たちがほしい水着」を開発してもらったら
おもしろいんじゃないかと思ったんです。
三宅 はっきりとした意見を持っている中学生たちに
「自分たちがほしい水着」の開発を。
三瓶 そうですね。
それで、ご両親や先生にも会いまして、
お願いしてみたところ、
彼らからも「ぜひやりたい」という声がかえってきて
一緒に組むことになりました。

また、せっかくだから彼らにも
真剣なビジネスとして体験してもらえたらと思って、
「ほんとうに売れるものを考えてください」
とお願いしました。
三宅 ええ。
三瓶 それで昨年夏、うちで毎年行っている
目標を発表し合う「発表大会」で
彼らにプレゼンテーションをしてもらいました。

そして、試作品もつくったり調整したりしながら、
彼らとやりとりをしてきまして、
この2014年、発売する予定なんですが‥‥。
糸井 あ、もう発売まで決まっているんですか。
三瓶 はい、完成型はまだできていないんですが、
発売自体はすでに決まっています。
‥‥といいますか、
彼らにお願いした当初から
「どんなものができても発売しよう」と決めていたんです。
三宅 あ、「どんなものができても」。
それは、ぼくがこんなことを言うのもなんですが
‥‥大丈夫なのでしょうか。
三瓶 それは、大丈夫です。
もちろん彼らも商品づくりは初めてですから
どんなものが出てくるかはわかりません。

ですが私は「商品」って、
「誰かの思い」や「主張」があることが
いちばん大切だと思っているんです。

だからまずは、どんなものができてきても
「彼らの主張があればいいかな」と思っているんです。
三宅 「主張があればいい」。
三瓶 はい。この企画って、
「彼らがほしいものをそのままつくってあげたい」
という、それだけなんです。

こちらがなにか判断するというよりも、
「彼らがほしいものこそがいいもの」なので
変にうちが意見を言ったり、手を加えたりすることなく、
出てきたものを、そのまま販売してみたいと思ってます。

もしかすると結果的に
すごくふつうの水着をつくっちゃうかもしれないですが、
彼らのキャラクターがすごくおもしろいので、
「そこに賭けてみよう」という感じですね。
糸井 ‥‥おもしろいです。
三瓶 今は「ネット販売」というやりかたもありますし。

ただ、驚いたのは、
その子たち、こちらが何も言っていないのに、
自分たちで学校の生徒400人にアンケートをとって、
「マーケティング」してきたんです。
‥‥中学1年生ですよ?

ヨシカワ
そして彼らのアンケートによると、
「自分の体型を気にする子が非常に多かった」そうです。

そのため、彼らが考えた水着は
上下が別のセパレートタイプで、内側にギャザー入り。 
着る人の体型がわかりづらいつくりです。

また、今回つくったのは女子用の水着ですが、
女の子に限らず、男の子たちからも
「からだを見せたくない」という声があったそうです。
男の子たちからの声としては、
「おなかの腹筋が割れてないから見せたくない」。
一同 (笑)

ヨシカワ
また、日焼け止めは男女を問わず
ほとんどの子が使っていて、
「焼けたくないから、授業で肌を出したくない」
そんな意見も出てきたそうです。
三宅 「体を隠したい」「日に焼けるのが嫌」
そんなことを言われたら、
水泳の授業なんか成り立たないじゃないですか。

‥‥だけど、水着を着る当の本人である
中学生たちから、
そういう声が実際にあったということなんですね。
三瓶 そうらしいんです。
三宅 そういった「思いがけない生の情報」って、
今回の出会いがなかった場合、
知ることができた可能性ってどのくらいあるものですか?
三瓶 それは、ほとんどないですよ。
三宅 だけどぼく、フットマークさんって、
消費者の方の声を、これまでもかなり
積極的に聞いてきたほうの会社だと思うんです。
三瓶 うちもそうだと思っていたんですけど、
違うんです。おそらく。
中学生にしても、実際聞いてみると、
お客さんたちの声ってほんとうにいろいろという
感じがしました。
うちが拾えてない声って、まだまだ相当あると思いますね。
三宅 今回のこのプロジェクトのポイントって
どこにあるんでしょう?
やっぱり、その中学生たちの個性というか、
その個性ある中学生たちに出会えたことというか‥‥
糸井 ‥‥いや、それもあるんでしょうけど、
それ以上にぼくは
このプロジェクトのおもしろさというのは、
「この会社自体のスタンス」という気がします。

おそらく子供たちって
「言っていいよ」という場面さえあれば、
いろんな意見を言うと思うんです。
玉石混合の、もしかしたら石ばっかりみたいなものも。

だけどその意見を
「じゃあ、やってみたら?」と言う会社は
おそらく、ほとんどない。
もし、うちの会社でこのアイデアが出てきたとしても、
「いや、可能性がほとんどなさそうだし、
 損しそうだし、やめとこうよ」
と言う気がします。

だけど、この会社はそこで
「いや、やってみよう。何がでてきても販売しよう」
と言ったわけですよね。
その「決意」や「覚悟」はすごいものだと思います。
三瓶 あ、ですが、このプロジェクト、
そんなに大きなお金が必要なわけじゃないんですよ。
糸井 はぁー‥‥それはつまり、
「社内でつくるときもハズレはあるわけだから、
 それ以上に損しなければいいや」
ということですか?
三瓶 そうですね。
「時間」がちょっとかかるくらいです。

もちろんその同じだけの「時間」を
なにかの商品開発にあてていたら、別に、
何億円かのビジネスができていたかもしれないです。

ですが、これまでと同じやりかたで
「ものづくり」をしてしまうと、
うちは「ほかの企業がやるのと同じこと」を
やりつづけることになります。
それこそ、危険ですから。

うちの会社はどこかで「うちなりのやりかた」を
見つけていかないといけない。
だからとにかく、やってみよう。
そんな考えでやっていることなんです。
(つづきます。)
2014-02-04-TUE


フットマーク株式会社が開発した商品には、
実は日本中に広まっているものが、ずいぶんあります。
その一部をご紹介します。



水泳用品を数多く手がけるフットマーク株式会社は、
もともとは「赤ちゃんのおむつカバー」の会社でした。

しかし、おむつカバーは
夏に売り上げが落ちてしまう商品。
そこで「夏に売れる新商品を」と生まれたのが
水泳帽でした。
若き日の磯部会長が、ふと思いついて
おむつカバーを頭にかぶってみたところ
「ちょうどいいフィット感」。
そのことがきっかけとなり、
磯部会長は開発に着手。
おむつカバーで培ってきた
フットマーク独自の縫製技術や防水技術も
開発の役に立ったそうです。

全国の学校に、
「色分けした水泳帽や、名前を書いた水泳帽を
 生徒たちにかぶってもらうと、
 水泳の授業がしやすくなる」
という「使い方」まで含めた提案をすることで、
日本中に一気にかぶる習慣ごと広まったそうです。

現在もフットマークの主力商品の一つで、
日本国内で高いシェアを誇っています。



スイミングバッグは
水泳帽のヒットに合わせて、
フットマーク株式会社が
いちはやく開発した商品でした。



それまでは海女さんが装着するような
1ツ目タイプものしかなかったそうです。



水中運動用の全身水着。
中高年の女性たちの、
「自分たちが着る水着がない」
「競泳用の水着は、水中ウォーキングなどの
 おだやかな運動のとき身体が冷える」
「体型を隠すようなものがほしい」という
潜在的なニーズを掘り起こして生まれた商品で、
発売開始とともに大ヒット。
「健康水着」という水着の新しいジャンルを生む
火付け役になったそうです。



フットマーク株式会社では、近年、
水泳用品だけでなく、
介護用品も多く開発するようになりました。
そのきっかけとなった商品が、
「介護おむつカバー」。

高齢化社会の進行とともに
大人用おむつが広まってきた状況に合わせて、
赤ちゃんのおむつカバーの技術を活かした
「大人用おむつカバー」を販売したところ、
大きな反響があったそうです。

当初は「医療用おむつカバー」や
「病人用おむつカバー」などの名前で
販売していたそうですが、温かみのない名称で、
どうも使う人にとってうれしくない。
そこで磯部会長が考え出したのが
「介助」と「看護」の組み合わせた
「介護」ということば。
大人用おむつカバーを
「介護おむつカバー」という名前に変えて
売り出したところ、イメージチェンジに役立ち、
一気に売り上げが伸びたそうです。

また「介護」ということば自体も
「あったらいいな」と必要とされていた
ことばだったようで、
後に、あちこちの会社から「使わせてほしい」という
声があったそうです。
フットマーク株式会社の1984年の登録商標ですが、
使用料をとることはせず「どうぞ」と
ずっと自由に使ってもらっているとのこと。
今では、幅広く知られる一般的なことばとして
辞書にも載るほどになりました。